弁護士ブログ/労働法と国際私法

最近、某SNSの運営会社で、多くの従業員が解雇されたことがニュースになりました。

報道によれば、解雇の対象には日本法人の従業員も含まれているようです。

 

ところで、日本の労働法では厳しい解雇規制があることはよく知られるところ。

今回は、外資系企業に雇われた場合、日本の法律は役に立つのかという点についてお話したいと思います。

 

国際関係において日本の法律を使うためのハードルは、大きく分けて2つです。

まずは国際裁判管轄、つまりは日本の裁判所に裁判を提起できるかという問題。

次に準拠法、日本の法律を使えるかという問題です。

 

1 国際裁判管轄

外資系企業に勤務している場合であっても、勤務地が日本にある限り、民事訴訟法3条の4第2項により、原則として日本の裁判所の管轄権が認められます。

 

第三条の四

2 労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関する労働者からの事業主に対する訴えは、個別労働関係民事紛争に係る労働契約における労務の提供の地(その地が定まっていない場合にあっては、労働者を雇い入れた事業所の所在地)が日本国内にあるときは、日本の裁判所に提起することができる。

 

これは、雇用主と労働者の間に合意がない場合のルールですが、では例えば雇用契約書でカリフォルニア州裁判所を専属管轄の裁判所と定めたら、どうなるでしょうか。

国際取引ではよく見かける類の条文です。

この場合についても、労使関係に関する特則が民事訴訟法第3条の7に定められています。やや複雑な条文ですが、日本で働く労働者個人が日本の裁判所に訴訟を提起することをできなくするような労働契約の条項は、無効とされています。

 

これらの条文により、勤務地が日本である限り、日本の裁判所に裁判を提起できるようになっています。

 

2 準拠法

次に、日本の裁判所でどの国の法律が使われるかという点ですが、これについては「法の適用に関する通則法」という法律があります。

準拠法については、第7条で当事者の合意を優先することが決められていますが、まずは労働契約がない場合の規定から見ていきましょう。

 

第八条

前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

 

第十二条

3 労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。

 

労働契約の準拠法は、8条で「もっとも密接な関係がある地」の法律とされています。労働契約の場合、さらに12条3項で、労務を提供する地、つまりは勤務先の法律が「最も密接な関係がある地の法」と推定する規定があります。これらにより、日本で働いている労働者の労使関係については、基本的に日本法が適用されます。

 

一方、管轄合意とは異なり、準拠法については、たとえば労働契約上「本契約の準拠法は、ニューヨーク州法とする。」と定めた場合、これを無効とする条文はありません。

とはいえ、この場合でも日本の法律が全く無力ではありません。法の適用に関する通則法には、次のような条文があります。

 

第十二条 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。

2 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。

 

要するに、日本で仕事をしているのであれば、準拠法がなんであっても、日本の労働法の強行規定、特に日本法上の労働者を保護する規定が、労働者側の意思表示によって適用されるということです。

例えば、上記のようにニューヨーク州法を準拠法と合意したうえで、日本で仕事をしている従業員を解雇した場合でも、従業員が解雇を争う場合、日本の労働契約法の16条の解雇規制を使うことができるわけです。

 

というわけで、日本で人を雇って仕事をする限り、雇用主は日本の法律から逃げることはできません。

外国会社の日本支店や、外国企業の子会社でも臆するとなく、日本の弁護士に依頼して、日本の裁判所で戦うことができるのです。


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