弁護士ブログ/刑法改正等

昨日6月13日に改正刑法が成立しました。

主に侮辱罪(刑法231条)の改正について話題になっていますが,そのほかにもいくつかの改正がなされています。

今回は,侮辱罪以外の改正の主なものについて紹介します。

 

1 「拘禁刑」の新設

改正後刑法では、これまで存在した「懲役刑」と「禁固刑」を廃止して、「拘禁刑」としてひとまとめにしています。

懲役刑と禁固刑は,どちらも刑事施設(いわゆる刑務所)に拘置される刑でした。懲役刑は「刑務作業」として働く義務があり,禁固刑は「刑務作業」の義務がないという違いがありました。

今後は,裁判官が決める判決は「拘禁刑」として同じものとなり,それぞれの受刑者の状況に応じて,「刑務作業」をするどうかが決められることになります(12条3項)。

これに伴い,刑法や刑事収容施設の規定が整備されています。

 

また1月以下の比較的短い期間拘禁する「拘留」という刑罰についても変更がありました。これまで,拘留刑では希望者のみが刑務作業を行っていましたが,今後は拘留刑の受刑者にも刑務作業を義務付けることができるようになります(16条)。

 

2 執行猶予の拡大

執行猶予とは,比較的犯した罪が軽く,すぐに処罰しなくても更生が期待できる場合に,裁判官の決定により、判決後一定期間犯罪をせずに過ごすことで,「刑の言い渡しが効力を失う」つまり,刑罰を受けなくてよいことになる規定です。

原則として,執行猶予の期間中に新たに罪を犯したときは、新たな罪についての有罪判決に執行猶予を付けることはできませんが、例外的に新たな罪が1年以下の短期間の懲役や禁固に相当する場合には,裁判官は執行猶予を付けることができました。

今回の改正では,刑期の上限が2年間に延長されています(25条2項)。

 

3 執行猶予中の犯罪について

これまでの刑法では,執行猶予期間の経過直前に罪を犯したときの対応が決められていませんでした。このため,執行猶予期間経過直前に罪を犯した場合,裁判中に執行猶予期間が経過し,処罰を免れることがよくありました。

今回の改正で執行猶予期間が終わる前に新たな罪について起訴されたときは,新たな罪について結論が出るまで執行猶予の取り扱いが保留されることになりました(27条,27条の7)。

 

4 被害者の心情の考慮

刑事施設や保護観察所、少年院で、受刑者や執行猶予中の保護観察対象者,少年の取り扱いについて,被害者の心情等を考慮すること,被害者から心情等を述べたいという申出があったときは,原則としてこれを聴き取らなければいけないことが定められました(刑事収容施設方84条の2,更生保護法65条,少年院法23条の2等)。

また,被害者は受刑者や少年に対し,自分の心情を伝えるよう希望することもできます。

 

5 社会復帰支援

刑事施設や少年院が,受刑者や少年の社会復帰(住居の確保,就業など)を支援することが明文化されました(刑事収容施設法106条,少年院法44条3項等)。

また,特に正式裁判を受けずに釈放される比較的軽い犯罪に関する被疑者や,刑期終了後の受刑者など,刑事施設に収容されていない者に対する保護観察所の支援や,保護観察の進め方に関する規定が大幅に拡充されています。

 

6 全体像

今回の刑法等改正は,受刑者や少年の処遇を柔軟にし,社会復帰支援を充実させたものです。

刑事施設等において,受刑者等ひとりひとりの状況に応じた処遇を定めることで,罪を犯した原因を効果的に解消し,社会復帰を容易にすることで犯罪から離れた生活を開始すること期待していると考えられます。

今回の改正により,効果的に再犯の防止がなされ,犯罪が減少すれば望ましいことです。一方で,受刑者等の処遇について柔軟性を増すことは,恣意的な運用の危険を生じる一面もあります。

本改正のうち,侮辱罪以外の部分については,施行までしばらくの猶予があります。その間に刑事施設や少年院において,改正法を適切に運用する体制が作られることが大切です。


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