弁護士ブログ/パワーハラスメント

今回は、パワーハラスメントについて取り上げます。

〈事例〉消費者金融会社の上司甲は体力に自信を持っていたところ、会社主催の懇親会の席で、体格がよく腕力のありそうな新入社員Aに対し、宴席を盛り上げる目的で腕相撲をしようと提案した。Aは、気乗りしなかったが断ると甲の機嫌を損ねるかもしれないと思い、仕方なくこれに応じた。その結果、Aは、ムキになりすぎて右腕を負傷してしまった。

 

令和2 年1月に策定された、厚生労働省の告示で、パワーハラスメントとは、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素をすべて満たすものをいう」とされています。

労働紛争の相談は、10年ぐらい前までは「解雇」が多かったのですが、近年では「パワハラ」が抜きん出ています。なぜ、パワハラが起きるのか、a 加害者要因としては、固定的な価値観の押しつけ、b 被害者要因としては、依存体質、責任転嫁体質、c 環境要因として超競争状態、業績偏重などがあげられています。

 

パワハラ指針によると、パワハラを6つの類型に区分していますが、本事例は、第1類型の身体的な攻撃に該当するといえます。甲とAは上司と部下の関係にあり、教育的指導ではなく単に宴席を盛り上げようという趣旨でなされたものであり、Aをはじめとする従業員は、腕相撲を事実上強制されるような職場環境に置かれる危険がありますので、前記①〜③のパワハラの成立要件は満たすように思います。軽い気持ちでやったことが、会社を巻き込んだ(会社の使用者責任)損害賠償請求事件になってしまうとしたら残念なことです。

 

もっとも、実際には外部にはわかりにくい、もっと陰湿なやり方をするパワハラが多いと思われますが、これについては別の機会に取り上げようと思います。


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