今回は刑法についてのブログです。
最近、といっても数ヶ月前ですが、被害者から銀行カードを手に入れた特殊詐欺の「受け子」が「詐欺罪」ではなく「窃盗罪」で逮捕されたというニュースが目に付きました。
どうやら詐欺のやり口が変わってきた影響のようです。
「窃盗」と「詐欺」の違い
「窃盗」と「詐欺」は,どちらも財産に対する罪として,それぞれ刑法第235条,第246条に定められています。条文自体は下記のとおりです。
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
(略)
詐欺の特性は「欺いて」「財物を交付」させることにあります。単に騙すだけではなく,被害者が自分の意思で財産を相手に渡さなければいけません。特殊詐欺の関係では,例えば受け子が他人のカードを使ってATMからお金を引き出す行為は,窃盗になります。相手はATMで、人を騙してお金を払わせたわけではないですからね。
このあたりはややこしいので、刑法の試験問題でも頻出の分野です。
特殊詐欺の方法
では、なぜ特殊詐欺の受け子は「詐欺罪」ではなく「窃盗罪」で逮捕されたのでしょうか?
以前よくあったキャッシュカードを騙し取る特殊詐欺の手法は、被害者に対して「カードが犯罪に使われている」「カードを預かる必要がある」などと伝えて、被害者から直接キャッシュカードなどを受け取るものでした。この場合、被害者には受け子に対してカードを渡す意思があるので「財物を交付させた」ということができます。
ところが、これが報道されるようになったため、最近は、キャッシュカードを事前に封筒など中身が見えない入れ物に入れさせて、隙を見てこっそり偽物とすり替えるという手口がでてきました。「渡すわけではないから大丈夫」と安心させてしまうわけです。
この方法では、被害者は「受け子」に対してカードを渡そうとは思っていないので、詐欺罪は成立しません。本人の意思に反して財物を取ってしまったということで、窃盗罪の問題になるのです。
特殊詐欺はなんとか被害者を騙そうと、あの手この手を使います。その工夫は刑法的には「詐欺」ではない方法も含まれるほど、なんでもありです。
自分は大丈夫、特殊詐欺については知っているから大丈夫、と安心しないように気をつける必要があると言えるでしょう。
ちなみに、窃盗罪と詐欺罪の法定刑に大きな違いはありませんが、窃盗罪を繰り返すと「常習累犯窃盗」と呼ばれるより重い罪に当たる場合があります。こちらは3年から20年の懲役という非常に重い刑が定められています。