身元保証等高齢者サポート事業とは
(弁護士高木光春)
●今般入院して手術することになり、身元保証人を要求されたが、妻とは離婚しており、成人した子供とも連絡が取れず、親戚からも保証人を断られた(70歳男性)。
●姉が有料老人ホームに入居するに当たり、身元引受人を求められたが、身寄りがないため、民間の保証会社と契約しようかと思っている(80歳女性)。
入院とか施設への入所にあたり、身元保証人や身元引受人をつけてくれと必ずといっていいほど言われるでしょう。
病院や入居施設が身元保証人等に期待する理由の第1は、入院費や利用料の支払、第2は、緊急の連絡先、第3は、遺体・遺品の引取り、葬儀等です。
従来は、身元保証人等は、家族・親族が担ってきましたが、核家族化が進行している中で、簡単には身元保証人等が見つからないケースが増えています。
身元保証のお願いだけでなく、4人に1人が高齢者(65歳以上)の昨今、身体も不自由で認知機能も衰えてきているので、身の回りの世話、役所の手続や死んだ後のことも誰かにお願いしたいと思っている方は少なからずいるのではないでしょうか。
適当な身内や知り合いが手助けしてくれればまだいいのですが、いない場合どうしますか?
そこで登場するのが、①入院・入所の際の保証、賃貸住宅に入居する際の賃料の保証などの身元保証②役所等の代行手続や買物支援、通院・通所等の日常生活支援③遺体の確認・引取り・遺品の処分などの死後事務サービスを行う「身元保証等高齢者サポート事業者」です。
この事業全般について、指導監督する機関が不明確で、当該事業に関する法令も存在しません。
皆さんは、平成28年に「日本ライフ協会」というところが高齢者からの預託金を流用し、経営破綻した事件をご存知でしょう。虎の子の貯蓄が、預託金の名目で取られてしまったら、こんな不幸なことはありません。
預託金の管理方法には、事業者自身が管理する方法(二者契約)と、事業者ではない預託金管理者に管理を委託する方法(三者契約)がありますが、いずれにしても預託金の管理の透明性の確保が求められます。
ところで、身元保証人等がいない場合、病院の入院や施設の入居を拒んでいいのでしょうか?
「医師法」によれば、「正当な事由」があれば診療を拒否することができるとされていますが(19条)、身元保証人等がいないことは「正当な事由」に当たるとは思えません。また介護施設への入所においても、「正当な理由なく」サービスの提供を拒んではならないとされていますが、身元保証人等がいないことは、厚労省発出の通知によればサービスの提供を拒否する「正当な理由」には該当しないとされています。病院・介護施設の入院・入所に際し、身元保証人等がいないことがこれを拒否する正当な理由とはならないことを、病院・介護施設や監督機関である都道府県に周知・徹底すべきです。現に、身元保証人がいてもトラブルが発生した場合、あまり役に立たない例が多いようです。
高齢者をサポートする事業としては、社会福祉法に基づく「日常生活自立支援事業」や「成年後見制度」、そして、民間が運用する「身元保証等高齢者サポート事業」があります。
この「身元保証等高齢者サポート事業」を利用するにあたっては、国として、①価格とサービス内容を消費者にわかりやすく情報提供すること②サービスの担い手が誰なのか③契約締結にあたり弁護士等の専門家に内容をチェックしてもらうような働き掛け④運用が適切になされているかを判断する第三者機関を置き、評価を公表するといった仕組みの構築が必要であると考えます。