法律コラム/総理大臣の衆議院解散権

自民党総裁選、立憲民主党党首選が相次いで終わり、世のメディアの話題は総選挙の見通しに移ってきました。

こういった時期になるとしばしば話題に上がるのが、「総理大臣は衆議院解散のタイミングを選べるのか」という問題です。

時期もよいので、憲法の条文を含め、ご紹介させていただこうかと思います。

 

衆議院の解散が問題となるのは、憲法上、衆議院を解散する権限についてはっきり定めた条文がないためです。憲法上これについて記載した条文は2つあります。

第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

(略)

三 衆議院を解散すること。

(略)

 

第四十五条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。

 

第五十四条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。

② 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。

③ 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。

 

第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

 

第7条では、ことばの上では天皇が衆議院を解散することになっています。しかしながら、天皇に具体的な権限がないことは第4条に定められていますから、天皇が衆議院を解散することを決める権限があることを意味しません。誰かが決めた衆議院の解散の儀式を、天皇が行うという意味と考えられています。

 

第45条と第54条は、衆議院が解散された後どうするかを書いたもので、誰がどういった場合に解散をするかについての説明はありません。

 

第69条では、内閣不信任決議が可決された場合、衆議院が解散されなければ、内閣は総辞職をすることが決められています。ここでも、誰が衆議院を解散できるかは書かれていません。

 

こういったわけで、日本国憲法には、どうも衆議院は解散できるらしいことは書いてあるものの、解散の権限がどこにあって、どの程度のものなのかはっきり書かれていないので、議論になっていたわけです。

 

 

この問題については諸説ありますが、よく紹介されているものとしては、憲法第7条から考える説と、第69条から考える説があります。

 

現在の運用は、憲法第7条から考える説で、内閣に比較的自由な解散権限を認めます。

先ほどご紹介したとおり、憲法第7条は、天皇が衆議院の解散を行うこととされていますが、この行為は「内閣の助言と承認」によるものとされています。

そうであれば、いつ解散するかも、「助言と承認」の範囲内のこととして、内閣が決めてよいとする考え方です。

 

一方で、解散を強く制限するのが、憲法第69条から考える説です。こちらは、憲法上衆議院を解散する場合について記載されているのが第69条のみであることに注目しました。

であれば、衆議院を解散できるのは、第69条に記載された、内閣不信任案が可決された場合に限られるとするものです。

 

 

理屈としてはどちらも決め手に欠けるのですが、憲法第69条の場合に限るとする考え方は厳しすぎるという考え方が多数派のようです。

たとえば、内閣と国会が対立して予算が通らなくなった場合に、解散できないとすると、ずっと予算が通らず身動きがとれなくなってしまう可能性があります。このとき、内閣が職を賭けて総選挙を行い、どちらが国民の支持を得られるか明らかにする必要性は否定できないでしょう。

 

いずれにしても、国会の選挙は重要な事柄ですから、現状のようにはっきりしない理屈で運用されているよりは、憲法の条文を普通に読んで分かるものである方が望ましいとは言えます。

もし、今後憲法を改める機会があれば、このあたりも条文でしっかり決めておいた方が良いのかもしれません。


  お問い合わせ

  お電話