法律コラム/選択的夫婦別姓について

総裁選をきっかけに、選択的夫婦別姓の問題が取沙汰されている。何が問題なのか、弁護士の立場から考えてみたい。

1 結婚して法律上の夫婦となるとき、今の法律では、夫か妻のどちらかの姓を名乗らなければならない。つまり、どちらかは、それまで使っていた姓を変えなければならない。

これに対し、この夫婦同姓制度に加え夫婦がそれまで使っていた姓をそのまま使ってよいという夫婦別姓を選ぶことができるという制度が「選択的」夫婦別姓制度である。

選択的夫婦別姓が望ましいというのが、今年のNHKや日経新聞等の世論調査の6割以上の人の意見だとされ、今月15日共同通信による全国都道府県知事、市町村長に対するアンケートでは78%であるとのことである(下野新聞9月16日朝刊)。

2 私は、昭和生まれ、地方育ちの人間である。結婚すれば夫婦は同じ姓(大部分は夫の姓)を名乗り、子も未婚の間は親の姓を名乗り、亡くなれば夫の姓の○○家の墓に入るということに何の疑問も持たなかった。社会生活を送るうえで特に不便を感じることもなかった。昭和や平成初めの夫婦像は、例外はあるにしろ、夫は外で仕事、妻は専業主婦というのが一般的であった。この夫婦像に夫婦同姓はなじみやすかったともいえる。

3 なぜ、夫婦同姓制度だけだとまずいのだろうか。法律的にはこうだ。結婚の自由は憲法で認められているのに、それまで使ってきた姓を捨てない限り結婚できないというのでは、結婚の自由がないことになる、また氏名は個人の人格の一部だから制約されるべきものではない。憲法では、結婚は両性の合意のみで成立すると言っているのに姓を変えなければ結婚できないというのはこれに反する、また、建前上は、夫、妻どちらの姓を名乗ってもよいことになっているが実際は95%の夫婦が夫の姓を名乗っている、これは男女平等の理念にも反するのではないか。さらに、国際的にも、夫婦同姓を義務付ける国は日本のみであることから、国連の女性差別撤廃委員会から日本政府に対し、是正勧告がなされている。

4 最高裁判所は、2015年判決、2021年決定で、いずれも夫婦同姓の強制という現民法は憲法に違反しないと判断している。ただし、憲法に違反する、違反の疑いが強いとする少数意見の裁判官の割合は確実に増えている。

法律の解釈は、形式的に決まるものではなく、国民の意識や社会環境の変化に大きな影響を受ける。平成に入ってから女性の社会進出が進み、職場等で既婚者でも結婚前の姓を使いたいという意識が高まり、職場では通称として結婚前の姓を認めるという扱いが定着してきたものの、税や社会保障などの公的手続や金融取引では依然旧姓を用いることの制約が指摘されている。また、海外では通称が一般的ではないことからダブルネームとして不正を疑われる等の不都合が指摘されている。

5 夫婦別姓制度の核心は、個人の尊厳の問題である。人間は、だれも個人が個人として尊重されなければならないのか、家族制度、家制度がこれに優先するのか。人間が、とりわけ女性が自分の自由意思に従って結婚前、結婚後の姓を名乗れるかという民主主義の根幹にかかわる点にある。自分は不都合を感じていないから認める必要はないということにはならない。

 


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