Aさんは、トランスジェンダー男性(出生時の性は女性だが自分の性認識は男性)でバイセクシャル(性的指向が男女どちらにも向く人)です。出生時は「女性」と割り当てられ、高校時まで女性として生活しましたが違和感を感じ、会社に就職後、胸を切除する手術を受け、法律上の名前も変更しました(但し、戸籍上の性は女性のまま)(注)。
入社後は、直属の上司や一部の同僚にしかカミングアウト(他人に自分の性のあり方を打ち明けること)していませんでした。
会社の飲み会で性の話題になった時、Aさんは同僚から「(トランスジェンダーでバイセクシャルの人って)どうやってやるの?」などと聞かれました。また、業務中、上司から「取引相手とアポイントが取れないのは、男か女かわからないからじゃないのか」などと揶揄され、忘年会の新入社員の出し物を「トランスジェンダーをネタにすればいいじゃん」などとからかわれ、出社できなくなり、退職に追い込まれました。
この事例では、一部の人にしかカミングアウトしていないのになぜそれ以外の人に情報が漏れたのかというアウテイング(本人の性のあり方を本人の同意なく第三者に暴露すること)の問題、その結果としてパワーハラスメントの一種としてのSOGI(性的指向と性自認)ハラが行われたのではないかといった問題があります。
SOGIハラ、アウテイングはパワーハラスメントの一種として、大企業・地方自治体では2020年6月から、中小企業は2022年4月から防止対策が義務化されています。
今回は、ほんの頭出しで不十分な内容ですが、今盛んに言われているLGPTQ、多様性を目指す社会とかいうことは決して他人事ではなく、身近な問題であることをご理解ください。また、経営者としてもこれらの問題に関心を持ち、研修などを通しての性の多様性の十分な理解、職場環境の健全化に努めていただきたいと思います。
(注)戸籍上の性を変更するためには、生殖能力をなくす手術が必要だとする法律の規定は憲法違反であるとする最高裁大法廷判決が令和5年10月25日に出されました。