従業員を解雇する際の注意点は何ですか?

解雇は、例え会社の側に正当な解雇事由があったとしても、当該従業員がその解雇事由の事実の存否を争ったり、事実自体は認めても解雇の不当性を主張して紛争に発展した場合、会社は紛争に巻き込まれて解決に時間と多大な労力を費やさなければならなりません。
そこで、まずは会社としては話合いにより、従業員に任意の退職を実現させることが重要となります。従業員が納得して退職する場合には必ず、退職届けを提出してもらうようにして下さい。もっとも、従業員が全く納得していないのに執拗に任意の退職を促した場合には、後に争われ違法と評価される場合もありますので慎重に行う必要がある点に通委が必要です。
解雇事由が認められるにもかかわらず任意退職しようとしない場合は、解雇する判断もやむを得ないといえます。しかし、解雇には客観的に合理的理由があり、社会的に相当と認められる場合でなければ、解雇権の濫用として無効になる恐れがあります。そこで、解雇を考える場合にはまず、当該社員が解雇の不当性を争ってきた場合に解雇事由の客観性・合理性を主張できるように、十分な証拠を残しておく必要があります(従業員に注意をする場合のどのようにしたらいいですか?の項を参照)。
解雇には大きく、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇等があります。それぞれに要件が異なりますので、会社が考えている解雇の要件をきちんと充たす必要があります(普通解雇と懲戒解雇はどう違うのですか?及び整理解雇を考えているのですが、注意点はありますか?の項を参照)。
なお、解雇が法律上禁止されている場合も多くあります(例えば、産前産後の休業期間中及びその後30日間(労基法第19条)、公益通報を理由とすること(公益通報者保護法第3条)等)。解雇が法律上禁止されていないことは解雇を検討する上での大前提となりますので注意が必要です。

従業員に注意をする場合のどのようにしたらいいですか?

何度も遅刻や無断欠勤を繰り返したり、仕事上何度もミスを繰り返し会社の損害を与え、改善が全く認められず、客観的に見ても職務遂行能力に欠ける場合には、勤怠不良や能力不足による解雇が合理的かつ社会的相当であるとして認められる余地があります。
ただし、解雇が争われる場合には、会社の方でその合理性と社会的な相当性を立証していく必要があります。合理性と社会的相当性が認められるためには、
注意や指導や、処分(徐々に強いものに)ににもかかわらず、改善がなされなかったことを会社の側で証明する必要があります。そこで、注意の原因となる事実、注意・指導・教育の内容、次回注意されたときには、今後改善されない場合には相応の処分を加えることを示唆する文言等を必ず書面にて従業員に渡すことが重要です。
一度の問題行動を理由として解雇したのではなく、何度も注意を行うなどして解雇以外の解決方法を最大限模索したということが証明できれば、解雇が妥当なものであると判断される一材料となります。
また、注意の書面は、本人に渡すだけでなく、会社にも写しをとっておかなければ証拠としての意味がありませんので注意が必要です。
なお、注意を受けた者が自らの行動・自らの非を認めている場合に、その内容を記載した覚書を作成しておくことも、後々紛争に発展した場合に会社に有利に働きます。
まとめると、従業員の注意は必ず書面で行うことが重要です。

従業員に配転、出向を命じるときの注意点は何ですか?

配転、出向は、従業員やその家族に大きな影響を与えます。高齢化社会での親の介護、子の学校の問題などを理由として、従業員が配転や出向を拒否するという事例も増えてきています。配転や出向等を従業員に命じる際には、どのような条件が必要でしょうか。

配転命令

配転とは、従業員の同一企業内での異動のことで、職務内容または勤務地が相当期間変更されるものをいいます。このうち、同一の勤務地(事業所内)での職種内容を変更するものを「配置転換」、勤務地の変更を伴うものを「転勤」と呼んでいます。かつては、使用者に人事権があるので自由に配転命令をなし得るとの考えがありましたが、現在では人事権も無制約でなく、使用者と労働者との合意によって認められるものと考えられています。配転が認められる条件はいかのとおりです。

① 個々の労働契約・就業規則等に配転命令の根拠があること

勤務地が限定される労働契約が締結されている場合は、その限定された勤務地内での配転命令しか発令できません。限定された場所以外に配転するには労働者の同意が必要です。また、採用時に労働者の従事すべき業務が限定されていると見るべき場合にも、一方的な配転命令はできず、労働者の同意が必要となります。

② 当該配転命令が法令等の強行法規に反しないこと

配転命令が実質的に組合活動を妨害する目的があり不当労働行為にあたるものや(労働組合法第7条)、当該従業員の思想・信条を理由とするもの(労働基準法第3条)は、法令違反となり、当該配転命令は無効となります。

③ 当該配転命令が権利濫用にあたらないこと

配転命令が配転命令権の範囲内であっても、権利濫用に当たる場合は、無効になります。判例(東亜ペイント事件・最判昭61.7.14労判477-6)によれば、権利濫用か否かについては、次のⅰ~ⅴまでの要素を総合的に勘案して判断すべきこととされています。

  • ⅰ 当該人員配置の変更を行う業務上の必要性の有無
  • ⅱ 人員選択の合理性
  • ⅲ 配転命令が不当な動機・目的(嫌がらせによる退職強要など)でなされているか否か
  • ⅳ 当該配転が労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか否か
  • ⅴ その他上記に準じる特段の事情の有無(配転をめぐる経緯、配転の手続など)

出向(在籍出向)

出向とは、労働者の雇用先の企業(出向元)に在籍のまま、他の企業の事業所(出向先)で働く「在籍出向」と雇用先の企業から他の企業へ籍を移して働く「転籍」に分けられます。ここでは、まず、在籍出向の認められる条件について述べます。
出向も、上の配転命令で述べた①~③と基本的には同様の規制を受けます。ただし、出向に特有の事情に注意する必要があります。出向は配転と異なり、就労先が出向元から出向先に変わります。これは、法的には、出向元企業が、出向先企業に対し、労働者に対する「労務給付請求権」(働くことを求める権利)」を譲渡することを意味します。労働者への影響が大きいこともあって、民法上、労務給付請求権など使用者の権利を第三者に譲渡する場合は、労働者の承諾(同意)が必要であるとされています(民法625条)。この同意は、個別的な同意だけでなく、包括的な同意でもよいとする裁判例もおおくなってきています。ただし、包括的同意については、最高裁判所は、就業規則と労働協約に出向命令権を根拠づける規定があり、出向労働者の利益に配慮した出向規程(出向期間や出向中の地位、出向先での労働条件に関し、出向者の利益に配慮したルール)が設けられている事案で、企業は従業員の個別的同意なしに出向を命じることができると判断しています(最二小判平成15.4.18 新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件 労判847号14頁)。包括的同意といっても、出向者の利益に配慮したルールも定められている場合であるということに注意が必要です。
次に、出向命令権の行使が権利濫用で無効になるのはいかなる場合かについては、労働契約法14条に規定があります。同法14条は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と定めています。権利濫用か否かを判断する要素としては、配転の場合と類似性があります。
なお、出向期間中の労働関係については、基本的な労働契約関係は出向元にあると解されます。法的には、出向に伴い、出向元と出向する従業員の労働契約上の権利義務の一部が、出向先企業に譲渡されることになります。労働契約上の権利義務のどの部分が譲渡されるのかは、出向元と出向先の合意で定められることになります。一般に、労働時間に関する諸規定は、就労を命じる権限を持つ出向先に適用されると思われます、これに対して賃金に関する諸規定は、出向者への賃金の支払いに責任を持っている企業が出向元・出向先のいずれであるかを出向協定等に基づき判断したうえで、支払義務を有する側に適用されることになるでしょう。

転籍命令

転籍とは、従来の雇用先との労働契約を終了させ、新たに他企業との間に労働契約を締結して、当該他企業の業務に従事することになります。
よって、転籍は出向と異なって、労働者の個別的・具体的な同意が必要であることにほぼ異論はありません。

従業員を雇用する際の問題点は何ですか?

会社が従業員を採用し雇用するということは、民法第623条により契約であると明文規定されています。つまり、契約である以上様々な法規制に従わなければなりません。以下のような法律による規制に注意しましょう。

雇用対策法

国による雇用政策全般に関する基本方針を定めた法律です。社員を採用する際に重要となってくるのは、雇用対策法第7条の「募集採用時の年齢制限禁止の努力義務」になります。これは会社が求人を行う際に原則として年齢制限を設けてはいけない旨を規定しています。ただし、努力義務となっているので会社側に採用にあたって年齢制限を設けることに合理的な理由がある場合はこの限りではありません。

男女雇用機会均等法

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について定めた法律です。男女における差別のない雇用機会及び待遇の確保を目的とすると共に、妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的としています。具体的に言えば、

  • 事業主(会社)の義務・募集・採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない。
  • 配置・昇進・教育訓練・福利厚生・定年・解雇について、女性であることを理由に男性と差別的取り扱いをしてはならない。
  • 女性労働者の婚姻・妊娠・出産・労働基準法上の産前産後休業を理由とする解雇の禁止。

等が挙げられます。

職業安定法

各人にその能力に適した職業につく機会を与えることによって職業の安定を図ることを目的とする法律です。この法律は、労働者の募集・職業紹介・労働者供給の基本的な枠組みについて定めた法律ですので、よく問題になるのが求人広告の虚偽表示・あいまい表示になります。具体的な労働条件の明示については後述します。

個人情報保護法

国及び地方公共団体の個人情報取り扱いに関する責務や施策、個人情報取扱事業者の義務等について規定した法律です。今日、採用にあたって履歴書や職務経歴書といった個人情報がわかってしまう資料を面接などで提出させるケースは多いでしょう。この個人情報について、採用決定を行うかどうかの範囲内で事業主は収集・保管・使用をしなければなりません。採用の枠組みを超えた個人情報の使用は違反となるので注意しましょう。

労働条件の明示

労働基準法第15条により、事業主は労働条件を書面にて明示規定することが義務付けられています。明示事項は下記の通りです。

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  3. 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  4. 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  5. 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
  7. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  8. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  9. 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  10. 安全及び衛生に関する事項
  11. 職業訓練に関する事項
  12. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  13. 表彰及び制裁に関する事項
  14. 休職に関する事項

(労働基準法施行規則第5条より)

以上が正社員・非正社員共に明示しなければならない事項となります。(パートタイマーについては⑩・⑪・⑭については努力義務となっています。) またパートタイマー等の短時間労働者に関しては更に以下の項目が必要となります。

  1. 昇給の有無
  2. 退職手当の有無
  3. 賞与の有無

最近では、能力主義的人事管理が強調されることが多くなっている為、目標管理制や年俸制を導入する企業も増えてきています。よって昇格・昇給だけではなく降等・降格に関しても明示するのが勧められています。

破産すると、会社、代表者はどうなるのですか?

会社の経営が悪化し、再建が困難であると判断した場合には、破産を考える必要があります。会社が金融機関から借入をしている場合、多くの場合は代表者も連帯保証人になっています。そこで、会社が破産する場合には多くの場合で代表者も大きな債務を負っているので破産を考える必要があります。
破産が裁判所に申し立てられ、債務超過にあると認められて破産手続き開始決定がなされると、裁判所から破産管財人が選任されます。破産は管財人が会社及び代表者の財産を包括的に管理・換価して、総債権者に公平に配分することを目的とした手続きです。会社の財産は原則として全て換価の対象となり、回収した金銭は破産財団を構成し、一定のルールに従って債権者に配分され、手続きが終了します。代表者の場合も、原則として代表者の有する財産は換価され、回収した金銭は破産財団を構成し、一定のルールに従って債権者に配分され、手続きが終了します。

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