過去の残業代の請求については在職中よりも、退職した従業員からの請求が多いと思います。
この場合、従業員は労働基準監督所などや弁護士に相談に行っているケースが多いです。従業員の要求を無視すると、労働基準監督署からの出頭要求や立ち入り調査などで、全従業員について未払いの残業代の支払を命じられる可能性もあります。また労働審判の申し立てや訴訟を提起され、会社が大きなダメージを受けることもあります。悪質と判断された場合には付加金を支払わなければならなくなるケースも生じます。
大切なことは、従業員の請求を無視しないということです。その上で、従業員の請求が妥当なものかどうかをきちんと判断する必要があります。従業員の請求には、不必要な時間外労働も多く、残業代の計算を適切に行っていない場合も多くあります。
会社としては、従業員の勤務実態を調査し、主張している労働時間に間違いがないか確認することが重要です。
早めに弁護士に相談に行き、適切かつ妥当な計算を行ってもらい、問題が大きくならないうちに問題を解決する必要があります。
会社には、解雇権というものがあります。従来は、就業規則等で解雇事由が定められていなくても解雇は出来るとされていましたが、労働基準法の改正や労働契約法の施行により、合理的な事由がなければ、その解雇は無効とされる旨が記載されるようになりました。よって争点となるのはその解雇が合理的事由に基づいているのか否かということです。
具体例を出すと、整理解雇いわゆるリストラが行われた場合を考えてみましょう。あなたは企業において人事権を握っている人間です。社員に「君はリストラだから明日から来なくていいよ」と通達したとします。通達された社員としては、生活もありますしこの通達は断固として受け入れられません。もちろんいきなり通告した場合は、解雇権の濫用にあたりその解雇の無効を主張できます。解雇手続には一定の要件があります。どうしようもない場合に解雇というものは成立すると考えてください。この場合ですと、①解雇をしなければ会社の存立が危ぶまれるくらい切迫した状況であるか。②新規の採用を抑制したり役員報酬のカット等、解雇を回避する努力をしたか。③誰を退職させるのかについて客観的・合理的な基準の下に人選がなされているか。④労働組合との協議や労働者に納得のいく説明がなされているかなどが挙げられます。
会社としては、解雇事由をなるべく広い範囲の事例に対応できるようにすることが大切です。考えられる全ての事由について就業規則に列挙することがお勧めされます。(その就業規則自体が不当なものにならないように注意しながら作成することが重要です。)
解雇事由は、就業規則において定められているのが一般的です。もっとも、解雇事由を網羅的に就業規則に規定することは現実的ではありません。また、いかに労働者が信義を欠く行動をしたり、職務遂行能力が無かったり、会社に損害を与えた場合にも就業規則の解雇事由に該当しない限り解雇できないとすることは不当な結果になりかねません。
そこで一般的には、就業規則の解雇事由は解雇事由を限定した趣旨であることが明らかでない限り例示列挙事由と解され、就業規則に規定のない解雇事由による解雇も有効となる場合があります。この場合、無制限に解雇ができるということではなくて、解雇が客観的に合理的と認められ、社会通念上相当であると認められる場合でなければ解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働基準法第18条2項参照)。
なお、就業規則に規定のない解雇事由の解雇は、無用の議論を生じるおそれがありますので、「前各号に準ずる重大な事由」等の包括条項を設けている会社がほとんどであると思われます。
整理解雇とは、会社の経営上の理由(企業経営の合理化、整備等)により人員削減が必要な場合に行われる解雇のことです。
この解雇では、裁判法理上一般に次の4要件を満たすことが必要と考えられています。
- 人員整理を行う業務上の必要性があるか(人員削減の必要性)
- 解雇を回避するために具体的な措置を講ずる努力が十分になされたか(解雇回避努力義務)
- 解雇の基準及びその適用(被解雇者の選定)に合理性があるか(被解雇者選定の合理性)
- 人員整理の必要性と内容について労働者に対し誠実に説明を行い、かつ十分に協議して納得を得るよう努力を尽くしたか(解雇手続きの妥当性)
ただし最近の判例では、整理解雇をする場合、必ずしも整理解雇の4要件全てを満たさなくとも整理解雇が有効と判断するものもあります。つまり、解雇権が濫用的に行使されたかどうかの判断に際しての考慮要素の類型化にすぎないとし、4要件を考慮要素として、個別具体的な事情を総合考慮して判断する裁判例が登場しています。
とはいえ、上記の4類型は考慮要素として重要なことには変わりはないと考えられますので、整理解雇を考える場合には、それが後に解雇権の濫用として無効とならないために、弁護士に相談の上、整理解雇を進めて行くことが重要です。
普通解雇と懲戒解雇は、使用者が一方的に雇用契約を解約する意思表示である点では共通します。しかし、懲戒解雇は企業秩序違反を理由に労働者を懲戒する目的でなす解雇である点で、債務不履行等を理由とする普通解雇とは異なります。懲戒解雇には、懲戒という側面と解雇という側面があります。
普通解雇、懲戒解雇ともいずれも、客観的に合理的な理由があり客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合でなければ、解雇権の濫用として無効(労働契約法16条)となることは共通です。 しかし、懲戒解雇の場合は、普通解雇の場合と比べて、有効性の判断は、就業規則や退職金規程等において退職金を支払わない旨規定していることが多く、また再就職等に際し大きな不利益を負うことになるため、また後述のように解雇予告手当を支払わなくて良い場合もあるのでより厳しく判断されることになります。
就業規則上の懲戒解雇事由に該当すること
普通解雇の場合には、就業規則の事由に該当しない解雇も一定の要件の下になしうると考えられています(就業規則に記載されていない事由で従業員を解雇できますか?の項を参照)。これに対して、懲戒解雇の場合は、就業規則の懲戒解雇事由に当たらない事由によって懲戒解雇することはできない(限定列挙)とされています。それは、懲戒解雇が、懲戒処分のうち、企業の外に放逐するという最も重い処分として行われるものであるため、解雇事由はあらかじめ就業規則に明確に定めておく必要があるためです。
従業員の行為と懲戒解雇処分することとのバランスがとれていること(相当性)
従業員の非違行為の程度やその他の事情に照らして、懲戒解雇という重い処分を行うことが本当に必要なのか、妥当な処分なのかが判断のポイントとなります。
適正手続の保障など罪刑法定主義に準じた措置の有無が要求されること
使用者が従業員を懲戒処分するにあたり、罪刑法定主義という刑事法の刑罰を科す際に準じた手続きが必要となります。
- 罪刑法定主義(就業規則上懲戒解雇事由が定められ、その事由に該当する具体的な事実が必要であること)
- 不遡及の原則(後から定められた就業規則の懲戒事由によって処分できないこと)
- 一事不再理の原則(過去にすでに処分を受けている行為について重ねて処分できないこと)
- 適正手続の原則(本人に弁明の機会を与えること)
会社としては、以上を踏まえて、懲戒解雇あるいは普通解雇が妥当かどうか検討する必要があります。
では、懲戒解雇事由、普通解雇事由のいずれにも該当し得ると考えられる場合、懲戒解雇を行うのと普通解雇を行うのとでは、どのような効果の違いが生じるのでしょうか。
解雇予告手当の支払の有無
労働基準法では、解雇する場合の手続として、30日前の予告または平均賃金30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要とされています(労働基準法20条)。普通解雇の場合には、解雇予告手当の支払が必要となります。 これに対して、従業員に即時解雇されても仕方がない著しい非違行為があれば、所轄労働基準監督署であらかじめ「解雇予告除外認定」を受けて解雇予告や解雇予告手当を支払うことなしに即時解雇することができます。懲戒解雇の事由にあたる場合には、解雇予告除外認定を受けられる場合が多いと言えますが、注意しなければならないのは、懲戒解雇=解雇予告手当を支払わないで良いということではないと言うことです。
雇用保険の給付制限の有無
雇用保険の失業等給付のうち基本手当(いわゆる失業保険)を受けようとすると、普通解雇の場合には、一般に給付制限を受けることはありません。しかし、当該社員の責に帰すべき重大な理由があって解雇または懲戒解雇された場合(重責解雇の場合)には、自己都合退職した場合と同様に給付制限を受けることとなります。つまり、待期期間経過後最長3ヶ月経過しないと失業等給付は支給されないことになります。
このように、普通解雇と懲戒解雇では、要件、効果に大きな違いがあります。