離婚の際の年金分割制度は、厚生年金や共済年金を対象にした制度です。婚姻中に夫婦の一方が納付した保険料の一定割合を、分割を受ける者が納付したものとして記録を付け替えて、分割を受けた者に受給開始の契機となる事態が生じた場合には、分割を受けた保険料を考慮した年金を受給する権利が,割を受けた者自身に発生するという制度です。自営業などで夫婦ともに国民年金に加入している場合は対象になりません。
また、自分自身の厚生年金の加入期間や国民年金の保険料納付期間により受給資格を満たしていないと年金は受け取れません。
被保険者の種類によって、年金分割制度においてどのように扱われるかが異なる場合があります。
第1号被保険者
20歳以上60歳未満の人であって、厚生年金又は共済年金に加入しておらず、且つ厚生年金または共済年金の加入者に扶養されていない人のことをいいます
第2号被保険者
厚生年金保険の被保険者、国家公務員共済組合・地方公務員共済組合の組合員、および日本私立学校振興・共済事業団年金の加入者のことをいいます。
第3号被保険者
第2号被保険者の被扶養配偶者であって、20歳以上60歳未満の人のことをいいます。
年金分割制度には「合意分割制度」と「3号分割制度」があります。
合意分割制度
2007年4月1日以降に離婚した夫婦が、結婚していた期間の厚生年金の標準報酬部分を最大2分の1まで分割できる制度です。分割の割合は夫婦の話し合いで決めますが、話がまとまらない場合は家庭裁判所の調停や審判で決めます。割合についての合意ができたら年金事務所に「年金分割」の請求を求める必要があります。
3号分割制度
3号とは専業主婦のことをいいます。2008年の4月から離婚するまで、第3号被保険者であった期間の夫の厚生年金の標準報酬額の2分の1を、話し合いや調停などによらずに受け取ることができます。ただし自動的に分割されるわけではないので、離婚後2年以内に、第3号被保険者であった本人が、年金事務所に分割の請求をする必要があります。
借金・ローンについて
配偶者の独身時代からの借金は、借りた本人に支払い義務があります。婚姻期間中に一方がした借金は、本人にだけ支払い義務があるものと、夫婦に支払い義務があるものとがあります。結婚してからの借金でも、自分の趣味やギャンブルなどに使うための借金であれば借りた本人に支払い義務があります。しかし明らかに生活費の為にした借金(日常家事債務)であれば、財産分与のときに分け合わなければいけないので、夫婦双方に支払い義務が生じます。ただし連帯保証人になっていなければ、第3者からの返済請求を受けることはありません。ここでいう日常家事債務とは、衣食住の費用・光熱費・家具・医療費・保険費用・子どもの教育費などをいいます。
ローン返済中の不動産の財産分与
婚姻中に取得した居住用不動産は、原則的には不動産の現在の時価から残ローンを差し引いた余剰価値が財産分与の対象となるという考え方をします。
1つ目は、不動産の価値(今、売却したらいくらの値がつくか)が、ローン残額を上回っている場合です。
現在の時価が4000万円であり、ローンの残高は2000万円という場合、財産分与の対象は、時価からローン残額を差し引いた2000万円で、もしその半分を財産分与すると考えると、1000万円ということになります。
分与の方法としては、売却して余剰金を半分ずつ分けるという方法でも良いですし、一方が不動産を全部取得してローン残額を負担し、さらに現金1000万円を他方に支払う、という方法でも良いことになります。
自宅を売却する場合と異なるのは、自宅を売却した場合には実際に手元に入る現金を分ければいいのに対し、自宅を維持する場合は、他からお金を用意しなければならないという点です。不動産を維持するほうに全く他にお金がない、という場合にはその金額を受け取ることが難しくなるので、分割払いをして公正証書を作成するなど、お金を確保する方法を考えなければなりません。
またこの場合、住宅ローンも残り続けることになりますが、不動産を維持するほうがローンを滞納して自宅が競売にかけられたとしても、売り値の方がローンより高くなるので、もう一方に支払いの請求が来る可能性は低いといえます。
この2点が、自宅の価値がローン残額よりも高い場合の処理方法です。
2つ目は、反対にローン残額が不動産の価値を超えており、いわゆるオーバーローン(不動産を売却してもローンが残ってしまう状態)の場合です。
現在の時価が1500万円でローン残高が2000万円だったらどうするか。原則として、財産分与の対象となる資産はないということになります。東京高裁の決定では、離婚に至るときまでにローンを支払い続けていたとしても、その結果として不動産に余剰価値が残っていないのだから、過去に支払ったローンを財産分与の対象として考えることはできないとしています。
上記で述べたように借金については、財産分与の対象とならず各自がそのまま責任を負うということになります。よってローンを組んだ名義人や保証人は、そのまま責任を負うということです。この場合、離婚したから半分にしてほしいとか、保証人から外してほしいということも原則的にはできません。離婚後はどちらが支払っていくかを協議したり、支払えないため破産などの方法で解決するかを検討することになります。
不動産を維持する場合も、不動産は価値がないことになりますので、財産分与の対象とはなりません。そのため、夫婦間での金銭のやり取りはなく、ローンや保証人もそのまま、ということになります。
この場合、不動産を維持する側は自分が住む住宅のローンを払うのに対し、もう一方にはメリットがないまま、ローンの支払義務が残るというのは不公平な感じがします。そこでこの場合、保証人から抜ける方法をとるのが通常です。
夫婦共働きの場合、または妻が専業主婦の場合であっても財産分与は2分の1というのが原則になっています。
しかし、夫婦どちらかが医者などの資格業であり収入が高く、財産分与割合が2分の1にならない場合もあります。裁判例においても、個人の特殊な能力や努力によって高額な財産を得た場合、財産分与の2分の1ルールを適用しなかった事例もあります。このように財産分与の割合が2分の1でなくなる場合は、あくまでも個別的に妻の貢献度が低い場合のみです。
しかし、資格を取る段階で既に結婚していて、妻が「経済的・精神的にサポートをしていた」という場合、貢献度は高いと言えます。妻のサポートが充実していた場合は、資格自体を財産として、むしろ財産分与が高額化する場合もあります。
[福岡高等裁判所昭和42年(ネ)第288号、昭和42年(ネ)第289号離婚等請求控訴事件昭和44年12月24日(抜粋)]
財産分与の額であるが、前示の一審原、被告の婚姻継続期間、本件離婚に至った経緯、一審原告の年令、双方の財産状態、婚姻中における一審原告の医業への協力の程度、子の扶養関係(この点は後記第四、に認定のとおり)等諸般の事情を考慮して、金二、〇〇〇万円が相当であると認める。
この点に関し、一審原告は、財産分与の額は夫である一審被告の財産の二分の一を原則とすべきであると主張する。なるほど、財産分与の本質は夫婦間における実質的共有財産の清算を中核的要素とするものと考えられるから、例えば、夫の財産が全部夫婦の協力により取得されたものでしかも双方の協力の程度に甲乙がないような場合であれば、財産分与の額を定めるにあたり夫の財産の二分の一を基準とすることも確かに妥当であろうが、本件においては、一審被告が前示の如き多額の資産を有するに至ったのは、一審原告の協力もさることながら、一審被告の医師ないし病院経営者としての手腕、能力に負うところが大きいものと認められるうえ、一審原告の別居後に取得された財産もかなりの額にのぼっているのであるから、これらの点を考慮すると財産分与の額の決定につき一審被告の財産の二分の一を基準とすることは妥当性を欠くものといわざるを得ず、一審原告の主張は採用できない。
例えば、個人事業主のような会社の場合、従業員が社長とパートのみという会社が多く、家族で経営し会社名義で自動車や備品を買ったりしているところも多々あります。そういった場合、裁判所の見解では「法人はあくまでも個人とは法的に別個の存在」であり、財産分与とはあくまでも夫婦個人の財産を分けるものであるから、原則として法人の財産は財産分与の対象にはならないとしています。
しかし言い切ってしまうと、そのような会社の場合、何でも法人名義で買っておけば離婚しても分けることなく所持できるという不平等が生じてしまいます。そこでこのような不平等が起こらないように、裁判所は妻と夫だけのような会社であるような場合はその法人の財産も財産分与の対象として夫婦で平等に分けるという考え方になっています。
[東京地方裁判所平成13年(タ)第304号、平成13年(タ)第668号離婚請求事件、離婚請求等反訴事件平成15年9月26日(抜粋)]
(2)そこで、問題は、被告が上記共有財産の形成や上記特有財産の維持に寄与したか、寄与したとして、その程度が問題となる。
ア 前記認定のとおり、被告は、A1社、I1社を初めとする多くの会社の代表者であって、社団法人、財団法人等の多くの理事等を占める、成功した経営者、財界人である原告の、公私に渡る交際を昭和58年頃から平成9年頃までの約15年に亘り妻として支え、また、精神的に原告を支えたことからすると、間接的には、共有財産の形成や特有財産の維持に寄与したことは否定できない。
なお、この点に関し、原告は、被告が原告の交際を助けた点については、直接利益に繋がるものではなく、経営者、財界人としての社会的責務を果たしたボランティア的なものに過ぎず、原告の財産形成に対しての寄与はまったくなく、むしろ経済的には損失である旨主張する。
しかし、その社会的責務は、成功者である経営者、財界人としての原告の地位に当然伴うものであること、それを果たさないことは、成功者である経営者、財界人としての原告の地位を脆弱とする危険性も否定できないこと、原告が、被告が社会的責務を果たすことを要請し、具体的な指示もしていることからすると、その社会的責務を共に果たした被告は、間接的には、原告の財産維持、形成に寄与していると解される。
イ しかし、他方、前記認定のとおり共有財産の原資はほとんどが原告の特有財産であったこと、その運用、管理に携わったのも原告であること、被告が、具体的に、共有財産の取得に寄与したり、A1社の経営に直接的、具体的に寄与し、特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はないことからすると、被告が原告の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。
ウ そうすると、原被告の婚姻が破綻したのは、主として原告の責任によるものであること、被告の経歴からして、職業に携わることは期待できず、今後の扶養的な要素も加味すべきことを考慮にいれると、財産分与額は、共有物財産の価格合計約220億円の5%である10億円を相当と認める。
財産分与の対象となる財産は「結婚中に夫婦の協力によってえた財産」となっています。したがって親から相続した不動産は、夫婦共有の財産とは言えず原則として財産分与の対象ではありません。
しかし、固有の財産も相手の特段の協力があって維持できたということもありますから、あまり形式的に考えると妥当性を欠く場合もあります。
たとえば、夫が親から引き継いだ店を夫婦で切り盛りして維持してきた場合などは「特有財産の減少防止に協力した点において、その財産につき、一種の持分的権利を有する」などと判示した裁判例もあります。