無理矢理に親権を押し付けても、子どものための監護養育は期待できません。「やむを得ない事由があるとき」には親権者を辞任することができますが、やむを得ない事由があるかないかは、親の判断1つでは決められず、家庭裁判所に申し立てて許可の審判を必要とします。家庭裁判所は、長期間海外に滞在せざるを得ないとか、刑に服する、重病であるなどの個々の事情を調査した上で辞任を許可します。再婚なども事情次第になります。許可の審判書の謄本を添えて戸籍係に親権辞任の届出をしてはじめて辞任の効果が生じます。
また、離婚のときにいったん親権者を定めたものの、その親権者が子どもに対して虐待を行っていたり、養育を放棄するなど、親権者として問題があるときや相手に親権を代わってほしいときは、親権者変更の申し立てをしなければなりません。変更できるのは「子の利益のために必要があると認めるとき」で、親の都合で変更できるものではありません。親権者変更の申し立てができるのは、子どもの父、母だけではなく、子の親族からもできます。例えば、妻を親権者と定めて協議離婚したものの、その妻が子どもを実家に預けたまま他の男性と同棲してしまい、子どもの面倒を見られないようなとき、夫はもちろん親権者の変更の申し立てをできますが、夫の父母からも親権者変更の申し立てができるのです。親権者変更の調停または審判が成立したときは、その謄本をもらって戸籍係への届出をすることが必要になります。子どもが虐待を受けているなど、子どもを保護する緊急の必要性がある場合は、親権者変更の調停または審判の申立てと同時に、審判前の保全処分として、仮の子の引渡し(暫定的に子どもを引き渡す処分)を申し立てることができます。
親権者の変更が認められるかどうかの判断基準は、子どもの利益のために親権者の変更が必要かどうかという点で下記のような要因があります。
- 養育の環境
- 子どもに対する愛情の度合い
- 現親権者の養育態度
- 現親権者の心身の健全性
- 子どもの年齢,心身の状況,精神状態
- 子どもの意思 など
しかし、申し立てをしても必ず変更されるとは限りません。家庭裁判所の実情をみると、親権者の指定及び変更事件の数は多いですが、そのうち不成立・取り下げも全体の約35%もあります。現状において、子どもが親権者となった親から虐待されたり、育児放棄されたりなど、かなり明白な事情を証明できなければ、子どもの現在の環境をひっくり返して、再度子どもを混乱させることは望ましくないと考えられているのです。
子どもと離れて暮らす親には、離婚後、子どもとあったり連絡をとったりする面接交渉権があります。民法766条にも「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子の面会及びその他の交流について、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と面接交渉についてもふれています。
面接交渉について決めなくても離婚はできますが、離婚後の話し合いは難しい面があるので離婚前に決めておくのが望ましいです。話し合いでは、会う頻度や面接の時間・場所などを具体的に決めて離婚協議書などの文書にしておきます。話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に面接交渉の調停を申し立てることができます。ただし、親として会いたいからたくさん会わせてほしいというだけでは裁判所は説得できません。面接することが、子どもの幸せの観点から利益になるということを説得的に裁判所に伝える必要があります。
子どもを引き取った側は、相手方とは会わせたくないと思っても、理由もなく子どもとの面会を拒否することはできません。ただし相手に会うことが子どもの幸せにとって害があるときは面接の拒否や制限をすることができます。例えば、暴力をふるう・養育費を支払わない・連れ去りの恐れがあるなどの場合です。
子の監護をめぐって話し合いがつかないとき、とくに離婚問題自体がこじれて、夫婦が完全な別居状態に至った場合に、夫または妻が相手の意思に反して一方的に子を引き取ってしまう場合があります。
このような場合、子どもを取り戻す法律的な方法、手続きとしては、家事事件手続法と人身保護法とがあります。
「子の監護者の指定そのほか子の監護に関する審判の申し立てがあった場合に、家庭裁判所は別の申し立てによって仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる」というものです。そしてこの保全処分は、審判前における子の引渡しを含むとされていますので、この制度が利用できます。この申し立てが認められると、引き渡せという審判がなされます。保全処分には強制執行力があり、後に基本の審判でも監護者として指定される可能性が高いといえます。家庭裁判所が子どもを引き渡すように命じる審判や仮処分が出たにもかかわらず、子どもを引き渡さない場合は家庭裁判所が子どもを引き渡すよう説得したり(履行勧告)、お金を支払わせたりする(間接強制)ことで、子どもの引き渡しを促すことになります。
また、子どもの引き渡しには人身保護請求という方法もあります。これは、請求の日から1週間以内に手続きし、すぐに裁判が行われます。裁判所が子どもを引き渡すように命じたにもかかわらず、これに従わない場合、罰金や懲役などが課せられます。
親権とは、未成年の子どもを養育・監護し、その財産を管理する権利・義務のことをいいます。監護権とは、未成年の子どもを養育・監護する権利・義務のことをいいます。親権には、「身上監護権」と「財産管理権」の2つがあります。
身上監護権
子どもの衣食住の世話をし、教育やしつけをする義務のことをいいます。
財産管理権
財産を管理する能力のない未成年にかわって法的に管理し、契約などの代理人になる権利と義務のことをいいます。
また親権には、
- 子どもの住む場所を指定する
- 親は必要な範囲内で子どもが悪いことをしたときに戒めたり罰を与えたりする
- 子どもが仕事をするときには、判断し許可を与える
といった内容も含まれています。
通常は子どもを引き取った親が親権者となり、日常的な世話・教育をし、監護者ともなります。最近では例外的に親権から身上監護権の子どもの世話や教育の部分の権利と義務を分けて、親権者と監護権者に分けることで解決をはかることもあります。子どもを引き取らない親が親権者となり、引き取った親は監護権者として子どもの世話や教育・しつけを行う形です。しかしこのように、親権者と監護権者を分離してしまうと、トラブルの元になり、子どもに悪影響を及ぼすことが懸念されるため、家庭裁判所が親権者と監護権者の分離を認めることは,ほとんどありません。また、離婚だけを先に行い、親権者の決定を後回しにすることはできません。未成年の子どもが2人以上いる場合は、それぞれ親権者を決めなくてはなりません。
離婚して夫婦は他人になっても、親子関係が途切れることはありません。親には未成年の子どもを養育する義務があり、子どもには扶養を受ける権利があります。離れて暮らすことになった親にも養育費で扶養の義務を果たす必要があります。
養育費には、子どもの衣食住などの生活費・教育費・医療費・娯楽費などが含まれます。離婚後、父母はその経済力に応じて養育費を負担し、通常は子どもを引き取って育てる親に引き取らない親が支払います。
養育費を何歳まで支払うかは、父母の話し合いによって決定します。家庭裁判所の調停や審判では満20歳までが一般的ですが、高校や大学卒業とすることもあります。また、養育費の金額に法的な規定はありません。父母の収入や財産、生活レベルに応じて話し合います。金額は生活に必要な最低限度の額ではなく、親と同レベルの生活をさせる義務があると考えられています。一般的には子ども1人につき月額2万円~4万円が多いです。支払いは毎月振り込むのが一般的ですが、相手に長期にわたって支払う経済力がない、信用がおけないと思われる場合は、相手が承諾すれば一時金として離婚の際にまとまった支払いを受ける方法もあります。養育費は子どもからも請求することができます。
養育費の算定には、東京・大阪の裁判官が共同研究所の結果、作成した「養育費算定表」が参考資料として広く活用されています。(東京家庭裁判所のホームページ参照)養育費算定表は、子どもの人数と年齢により9つの表に分かれていて、子どもを引き取る親と養育費を払う親の収入により、標準的な養育費の額を割り出せるようになっています。しかしこの金額は、あくまでも目安であり、最終的には当事者間の話し合いにより金額を決定します。話し合いがつかない場合、家庭裁判所に調停を申し立てします。
この表でみると、 例えば、
元夫の収入800万円、妻の収入100万円、12歳の子を妻が引き取った場合 |
元妻は元夫に、10~12万円を請求できる |
元夫の収入500万円、元妻の収入300万円、18歳の子と12歳の子を妻が引き取った場合 |
元妻は元夫に、8~10万円を請求できる |
ということになります。
金額と共に支払い期間と方法も決めます。不払いなどのトラブルも少なくないので養育費についての話し合いがついたら、必ず文書にしておきましょう。文書には、支払いの期間・金額・支払い方法などを具体的に明記します。文書はできるだけ強制執行力のある公正証書にします。もし支払いが滞った場合に裁判をおこさなくても、相手方の給料や財産を差し押さえるなどの強制執行ができます。