執行猶予とは、刑の言い渡しはするが、情状によって刑の執行を一定期間猶予し、猶予期間を無事経過したときは刑罰権を消滅させることとする制度のことです。
これには、施設収容を避けて短期自由刑(刑期の極めて短い自由刑)に伴う弊害を防止し、猶予期間内に再犯すれば刑を執行するという威嚇の下に再犯を防止し、猶予期間を無事経過した際は刑の言い渡しの効果を消滅させて、前科に伴う不利益をなくし更正に役立てることを目的としています。
執行猶予の要件は徐々に緩和されてきている傾向にあり、具体的には以下のような要件となっています。
- 前に禁錮以上の刑に処されたことがないとき、処されていてもその執行終了後又は執行免除を受けた後5年経過しても、禁錮以上の刑に処されたことがない者が3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金に処されたとき
- 前に禁錮以上の刑に処され、その執行猶予中の者(ただし保護観察中でない者)が1年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受け、情状が特に軽いとき
以上の場合では1年以上5年以下の期間、執行を猶予できるものとされています。執行猶予付きの判決の場合,保護観察に付して,猶予の期間中,保護観察所の保護観察官や保護司の指導を受けるようにすることもあります。
保釈保証金とは、保釈の条件として納付を命じられる一定の金額になります。裁判所は、犯罪の性質・情状、証拠の証明力、被告人の資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な保証金額を定めなければなりません。(刑事訴訟法第93条)
保釈金は、正当な理由なく公判等に出頭しない場合に没取されるという心理的威嚇の効果を期待しています。よって、保釈金の額は被告人が没収されたら苦しいと思える程の額のものでなければなりません。
ドラマやニュースで保釈金が億単位のものを見かける機会が皆様もあると思います。参考までに、現在日本において保釈金の最高金額は20億円になっています。無論、被告人になくなった場合の経済的苦痛を考慮して額は決められていますが、過去には最高で6億円の保釈金が没取された例があります。(被告は韓国へ逃亡しました。)
前述したものは、資産家であったり経済事件という性質の下に決められているもので、保釈金の具体的金額は一般人であれば、相場は100万円~500万円程とされています。(もちろん、保有している資産の額によって変動します。)
保釈保証金は、基本的には保釈請求者(基本的には被告人本人、その弁護人、その法定代理人(親権者)、保佐人、配偶者、直系の親族(両親、子供)もしくは兄弟姉妹)が納付しますが、裁判所が許可すれば保釈請求者以外の者が納付することができ、純粋な現金だけではなく有価証券又は保証書(保証金の納付に代えて、被告人以外の者が差し出す書面のことで、内容には保証金額及びいつでもその保証金を納める旨が記載されています)で保釈保証金に代えることも出来ます。
保釈金の調達方法には大きくわけて3つの方法があります。
- 被告人自身の預貯金で支払う
- 被告人の家族・親戚・勤務先などに立て替えてもらう
- 業者から借り入れる
業者には、日本保釈支援協会という社団法人が存在しています。この社団法人が保釈保証金を立て替えてくれたり、保証書の発行をしてくれたりしますが、額に応じて手数料が取られます。保釈できるならそのぐらい安いと思われることもあるかもしれませんが、ご利用は慎重になってください。
保釈とは、保釈保証金の納付を条件として、勾留中の被告人を現実的な拘束状態から解放する制度のことです。つまり、保釈金を払えば、勾留されることなく一般的な生活を送ることが出来ます。しかし、もちろんの事ではありますが公判への出頭はしなければなりません。もし、正当な理由なく出頭しない場合にはこの保釈保証金の一部又は全部が没取されることとなります。保釈は以下のケースで請求されます。
- 被告人・弁護人等の請求による場合(請求保釈)
- 職権で行う場合(職権保釈)
- 保釈の請求があったときに必ずこれを許さなければならない場合(必要的保釈又は権利保釈)
- 裁判所の裁量で保釈を許す場合(裁量保釈)
- 拘禁が不当に長くなったため保釈を許さなければならない場合(義務的保釈)
保釈請求が請求権者(基本的には被告人本人、その弁護人、その法定代理人(親権者)、保佐人、配偶者、直系の親族(両親、子供)もしくは兄弟姉妹)によって行われると次に裁判官面接が行われます。ここで重要になる話し合いは公判で争う意思があるのかと保釈保証金の額です。まず、検察官の提出する証拠書類に同意せず、公判にて争う意思がある被告に対しては保釈決定の許可はおりないと考えていいでしょう。ここをクリアした上で、この裁判官面接にて保釈保証金の額の決定が行われます。保釈保証金には正当な理由なく出頭しない際に一部又は全部が没取されるという心理的威嚇の効果を期待している側面があるため、被告にとって経済的負担として相当な額が決められます。もちろん資産を多く持っている人間には、ニュースやドラマでよく見るような億単位の保釈保証金が設定されますが、通常は、150万円~500万円で落ち着くことが多いようです。その後、検察官からの意見が裁判所に出されます。これは大きく分けて3つの意見が裁判所に提出されます。その3つとは、「保釈を認めます」「保釈を認めません」「裁判所の判断にお任せします」の3つになります。「保釈を認めます」という意見は実務上出ることが非常に少ないようです。なので「裁判所の判断にお任せします」という意見が出れば高確率で保釈が認められると考えていいでしょう。これらを全てクリアするとようやく保釈決定の許可が出ます。しかし、決定後すぐに勾留から解き放たれるわけではなく、保釈は保釈保証金の納付後に執行されます。(刑事訴訟法第94条第1項)保釈保証金の納付に関しては、基本保釈請求した者が払うのが原則ですが、裁判所が認めれば保釈請求者以外の者が納付することも可能です。また、納付するのは純粋な現金だけでなく有価証券又は保証書で保証金の代わりにすることも出来ます。保証書とは保証金の納付に代えて、被告人以外の者が差し出す書面のことで、内容には保証金額及びいつでもその保証金を納める旨が記載されています。保釈保証金は何事もなければ、全額返金されますが、没収された部分については返ってきません。
保釈には、色々な条件が付けられることもあります。代表的なものは、住居の制限です。簡単に言えば、住む場所を限定させられるということになります。他には、被害者に近寄らないなどの条件が付されるときもあります。
保釈中に被告人が正当な理由なく不出頭したり、逃亡、罪証隠滅等の事由が生じたときには保釈は取り消されます。保釈を取り消された場合、被告は速やかに収監されることになります。
裁判員裁判とは、司法制度改革審議会が提言した、一般国民が刑事訴訟制度に参加する制度のことです。選挙人名簿から無作為に抽出された者から事件ごとに選出される裁判員が、職業裁判官とともに合議体を構成して刑事事件の審理を行うこととなります。裁判官と裁判員は基本的に対等な権限を持っており、共に評議することで、事件の有罪・無罪の決定及び刑の量定を行います。無論、裁判員は一般人であり有資格者と違い専門的知識は有しておりません。しかし、裁判員は自らの常識に照らし合わせて、有罪とすることに少しでも疑問があれば無罪、疑う余地がなければ有罪と判断することになります。いわゆる、疑わしきは罰せずという精神が根付いています。
裁判員裁判の対象事件
裁判員裁判は、全ての刑事事件が対象となるわけではなく、法定刑の重い重大犯罪が対象となります。代表的なものを挙げれば、殺人や強盗致死、傷害致死、危険運転致死、現住建造物等放火、身代金目的誘拐、保護責任者遺棄致死、覚せい剤取締法違反等が挙げられます。更に刑事裁判の控訴審・上告審や民事事件,少年審判等は裁判員裁判の対象にはなりません。また、公訴事実に対して被告人が認めていようが認めていなかろうが対象となります。被告側も、裁判員による裁判が行われるからといって裁判を辞退することは認められていません。
裁判員裁判の特徴
合議体の構成
通常は、裁判官が3人又は1人で裁判手続を行い判決に至ります。しかし裁判員裁判では、選挙人名簿から無作為に抽出された者から事件ごとに選出される裁判員6名が審理に加わります。(例外として、裁判官1名・裁判員4名で構成される場合もあります。)
事前準備を前提とした集中審理
裁判員裁判では、冒頭手続から判決まで毎日公判が開かれることになります。これは、裁判員が職業裁判官と違い、普段は別に職を持っていたり生活に携わっていることから、負担を少しでも軽減しようと短期集中型の審理にする目的があります。大体3~14日程で判決に至るケースが多いようです。このような短期集中型の審理を可能にするためには、事前に弁護人・検察官・裁判所の三者間において争点の内容を明確にしておくことが重要となります。よって、裁判員裁判は公判前整理手続を行うことが義務付けられています。公判前整理手続で行われる内容には以下のようなものがあります。
- 訴因、罰条を明確にさせるとともに、追加、撤回又は変更を許すこと。
- 公判期日においてすることを予定している主張を明らかにさせて事件の争点を整理すること。
- 証拠調べの請求をさせ、その立証趣旨、尋問事項等を明らかにするとともに、それに対する意見(刑事訴訟法第326条の同意の有無も含む)を確かめ、証拠調べをする決定または却下の決定をし、証拠調べをする決定をした証拠について証拠の取調べの順序及び方法を定め、証拠調べに関する異議の申立てに対する決定をすること。
- 鑑定の実施手続きを行うこと。
- 証拠開示に関する裁定を行うこと。
- 被害者参加手続への参加決定またはこれを取り消す決定をすること。
- 公判期日を定め、又は変更することその他公判手続の進行上必要な事項を定めること。
公判前整理手続を義務化することで、審理スケジュールを明確にしスピーディな結審を迎えられるようにしています。
弁護人による冒頭陳述
通常の刑事裁判において、弁護人の冒頭陳述は任意のものとなっております。(検察官による冒頭陳述は義務付けられております。)しかし裁判員裁判においては、裁判員に対して事件の概要や弁護側の主張を明確にする為に弁護人にも冒頭陳述を行うことが義務付けられています。これは、裁判員が一般人であるということを考慮しているものであり、理解の手助けとして裁判員用のレジュメを配布したり、パワーポイントによる説明等を必要に応じて行うこともあります。
わかりやすさを追求した裁判
通常の刑事裁判では、証拠書面について法廷での朗読で事足りてしまい、裁判官が後ほどその証拠書面を精読して理解するという方式がとられることが多くなっています。(その為に、裁判が長引くケースもあります。)それに対して裁判員裁判では、証人の供述調書ではなく、直接証人を法廷に召喚し、話を聞くことで事実の判定に努めます。召喚できなかった証人に関する供述調書や、警察・検察による捜査報告書なども前述した短期集中型の審理であるという特性上、何度も読んだり熟読することは難しくなっていますので、そういった書面に関しては一回で理解が出来るようなわかりやすい書面が求められます。
一般的な団体におけるプレゼンテーションを想像していただくとわかりやすいでしょう。裁判員裁判においては、視覚や聴覚に訴えて事件の審理を行うケースがほとんどとなっています。
裁判員裁判の弁護に際して気を付けるべき点
短期集中の裁判
前述したとおり、裁判員裁判においては、限られた日数の中で一気に審理が行われるため、証拠書面を提出して裁判官に判断してもらうというこれまでの刑事裁判の手法はとれません。その為、証拠資料の朗読等では内容のわかりやすさはもちろんのこと、法律用語や概念をわかりやすい表現で伝えることが重要となります。また、原則として公判前整理手続にて提出した証拠以外の証拠を追加して審理に持ち込むことが禁じられている為、弁護側は今ある証拠の中で一貫した弁護をすることが求められます。
法律用語の説明
刑事裁判では、一般生活では聞きなれない法律用語がたびたび登場します。通常の刑事裁判であれば、審理を行うのは法律に精通した裁判官なので用語の説明はもちろん必要ありません。しかし裁判員裁判においては、一般人では理解できない法律用語や概念などを都度わかりやすい言葉に置き換えて説明をすることが求められます。例えば、法律用語に「善意」「悪意」という概念があります。これは一般生活における善意・悪意の概念とは大きく異なります。法律における善意とは端的に言えば「知らなかったこと」となり、悪意とは「知っていたこと」となります。こういった説明を裁判官はその都度挟みながら審理を行っていくことになります。
公判前整理手続を使いこなす
公判前整理手続において、まず、検察官より証明予定事実記載書面の提出と、これを証明するための証拠請求、証拠開示が行なわれます。その後弁護人は、検察官の手持ち証拠に対して類型証拠開示請求を行なうことになります。さらに、弁護人としては、予定主張の明示と検察官の手持ち証拠に対して主張関連証拠開示請求を行なうことになります。弁護人側にとっての公判前整理手続の最大の利点はこの証拠開示制度にあります。類型証拠開示請求においては、争点に関するものだけではなく検察官の請求証拠すべてにつき証明力を判断するために必要として、一定の類型に該当する検察官の手持ち証拠の開示を請求できます。そして、弁護人がどれだけ多くの証拠を開示させることができるかは、検察官の手持ち証拠としてどのような証拠があるのか、すなわち捜査機関がどのような捜査を行ない、どのような証拠を収集し、また証拠を作成していくのかについて、弁護人の知識・理解・推測力にかかるものといえます。
(刑事訴訟法第316条参照)
証人尋問における対応
証人尋問では、犯罪事実を認めている場合であってもそうでない場合でも行われます。認めている場合であっても、抽象的な言葉で尋問を終わらせることはできません。今後、被告がどのように更正していくかを具体的かつ計画的に裁判員の方々に伝えることが必要になってきます。犯罪事実を認めない場合には、検察が用意している証人の証言の信憑性について議論する必要があります。
刑事訴訟の第1回公判期日において、まず裁判官が検察官の起訴状朗読に先立ち、被告人に対して、人違いでないことを確かめるに足りる事項を問います。これを人定質問といい、通常は氏名・本籍地・住居・年齢・職業などを尋ねます。
人定質問が終わると検察官の起訴状朗読が始まります。(起訴状に書かれている公訴事実を簡潔に説明し、その犯罪が何罪に当たるかを読み上げる行為。)
次に、裁判官は取り調べでも行われた黙秘権の権利告知を行います。これは、取り調べにおける黙秘権の告知と変わらないもので、権利保護の為に必要な事項を告げていきます。この黙秘権を踏まえた上で、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会が与えられています。これを罪状認否といい、ここまでの手続を冒頭手続と呼びます。
冒頭手続が終わると、証拠調べに入ります。証拠調べとは、裁判所が証拠方法を取り調べてその内容を把握し、心証を形成することです。その始まりとして、冒頭陳述というものが行われます。これは証拠調べの始まりとして、検察官により証拠によって証明する事実を明らかにすることです。冒頭陳述は、起訴状において訴因として示された事実について証拠との関連を明確にして検察官の主張を具体化させることを目的としていますが、犯罪事実の立証に必要な範囲内で犯行の動機や犯行に至る経緯、犯行後の状況等を述べることができます。冒頭陳述により、裁判所は、審理方法の樹立及び証拠の関連性などの判断材料を得ることが出来、被告人も防御の重点をどこに置くべきかを知ることが出来ます。その後、証拠調べの範囲・順序・方法の予定、証拠調べの請求と証拠決定、証拠の取調べ、証拠調べの終わった証拠の処置という順序で行われます。取調べの方式は、証拠の性質に応じて、尋問・朗読・展示等です。証拠調べには、当事者の活動が大きな要素を占め、職権証拠調べはむしろ補充的なものとされています。なお、証拠のうち、被告人の自白を記載した供述書・供述調書及び被告人の自白を内容とする第三者からの伝聞供述の証拠調べについては、他のすべての証拠についての証拠調べが終わった後に行うことが原則とされています。また、被告人が自分の意思で供述を行う場合には、被告人質問における被告人の供述も証拠となります。
証拠調べが終わると、次に弁論手続に入ります。弁論手続とは当事者の意見陳述のことであり、具体的には検察官と被告人になります。ここで言われる意見とは、有罪・無罪の主張、犯罪の悪質性や被告人の更正可能性や情状に関わること、有罪だとすれば何罪に相当しどのくらいの求刑になるかという点になります。これが終わると、最後に被告人に自由に話させる機会を設けます。これを最終陳述といい、これが終わることで裁判は一度終了し、結審を待つこととなります。