労働審判は,労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人(使用者側1人,労働者側1人)で組織された労働審判委員会が,個別労働紛争を,原則として3回以内の期日で審理し,適宜調停を試み,調停による解決に至らない場合には,事案の実情に即した柔軟な解決を図るための労働審判を行うという紛争解決手続です。
次のような特徴があげられます。
①迅速な対応が要求されること
労働審判は,迅速な解決を目指すものであるため,原則として3回以内の期日で審理が終結されます。
第1回目は,申立てから40日以内に指定されます。
労働審判委員会は,第1回期日に,当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をし,可能な証拠調べを実施して審理の終結を目指すこととされ,第1回期日に審理を終結できない場合等に初めて次回期日を指定すべきこととされています。
このように,労働審判は,訴訟が長期間かかることに比べると,日程が非常にタイトです。そして,第1回目の期日で主張や証拠が出揃い,裁判所(労働審判委員会)の心証が得られ,調停案(和解案)が提示されることも多いです。
労働審判においては,第1回目が勝負といえます。そして,このことは会社側にとっては,迅速に対応することがきわめて重要であることを意味します。解雇の有効性等が争われる場合には,会社側に解雇が正当であることの立証責任があります。したがって,第1回期日までに,事前に会社の主張をきちんと文書(答弁書)にまとめ,その証拠を十分そろえて裁判所に送付することが求められます。このような準備を40日に満たない期間で行わなければならいのですから,会社側の負担は非常に大きいといえます。上で述べたように,会社側に立証責任があることが多く書面も提出する証拠も膨大になります。労働審判を申し立てられた場合,一刻も早く,労働審判手続に精通した弁護士に相談することが大切です。
②柔軟な解決が可能であること
裁判での判決は請求が認められないか,請求が認められるかの判断しかありません。たとえば,解雇無効を訴訟で訴えた場合,裁判所は解雇が無効か有効かの判断をします。
労働審判においては,手続きの中で話し合いによる解決の見込がある場合にはこれを試み,その解決に至らない場合には,労働審判を行うものとされています。つまり,紛争の実情に即して,話し合いによる柔軟な解決が期待できます。
③手続きが強制されること
都道府県労働委員会が扱うあっせん制度は,行政サービスのため出頭義務はありません。そのため相手方が出頭しないと何も進まないという問題がありました。労働審判では,労働審判官からの呼び出しに対して正当な理由なく出頭しなかった関係人は5万円以下の科料に科せられます。
④非公開であること
手続は柔軟な解決を目指しているので非公開で行われます。非公開とすることで,双方当事者の率直な意見の表明,意見交換,交渉,議論をうながして,当事者の互譲につなげていくというねらいがあります。
高木光春法律事務所事務所では,労働審判事件についても迅速に対応できます。労働者から申し立てがあった時には,準備の期間をできるだけ確保するためにも,まずは高木光春法律事務所事務所までご相談下さい。
労働組合から団体交渉を申し込まれた場合,労働者との間で賃金等の労働条件の問題や解雇の問題等ですでに問題が顕在化しているものと思われます。
団体交渉を求められた場合,使用者には団体交渉について合意達成の可能性をさぐって誠実に交渉しなければならない義務(誠実交渉義務)が課せられています。その趣旨は憲法上の権利である労働者の団体交渉権を実質的に保障するものです。ただし,使用者は団体交渉に応じる義務はありますが組合の要求に応じる義務はありません。もっとも,ここでの対応を間違えると,問題が長期化,拡大化しますので慎重かつ迅速に対応する必要があります。
団体交渉に際しての一般的な注意点は,以下のとおりです。
(1) 労働組合についての情報を収集する。
団体交渉申入れをしてきた労働組合が,会社内の労働組合であれば,組織の内容についてある程度把握することはできます。しかし,たとえば合同労働組合のような社外で組織された労働組合の場合には,組織の実態もわからないことも多いと思います。こうした場合には,ホームページ等で当該組合の組織内容,活動の方針や状況等について確認することが,団体交渉の下準備として重要です。
(2) 交渉のスケジュールを確認する。
労働組合から交渉の申し入れをされた場合,同時に団体交渉の日時の指定がされることが多々あります。しかし,使用者側としては,準備不足のまま団体交渉に臨むことは避けなければなりません。まずは時間猶予の申入れを行い,事前準備として事実調査や弁護士に依頼するなどを行う必要があります。もっとも,単なる引き延ばしにすぎない時間猶予の申入れは合理的な理由のないものとして不当労働行為と評価されてしまうこともありますので注意が必要です。
(3) 出席者について
労働組合側で誰が出席するのかをあらかじめ確認するとよいでしょう。
一方,労働組合側では,社長に強く出席を求めることがよくあります。しかし,使用者側としては交渉権限がある担当者を出席させれば,誠実交渉義務を十分に果たしているといえます。
会社代表者が出席する場合には,労働組合側から厳しい追及を受け,その場での回答を求められたりすることもしばしばあります。そのような場合には,即座に回答せずに持ち帰って検討するなど場の雰囲気に流されてしまわず冷静に対応することが必要です。
(4) 交渉の場所と時間に注意する
交渉の場所については,交渉がエンドレスになってしまう危険があるので会社内はできる限り避けた方がよいでしょう。公共の会議室等を指定するのが望ましい対応です。労働組合の事務所も交渉がエンドレスになってしまいがちなのは社内で行う場合と同様ですが,加えて相手方のホームグラウンドであるので,労働組合側のペースに飲み込まれてしまいやすいという点,どうしても労働組合の事務所で交渉を行わなければならないような場合には,弁護士を同行させるなどの事前の対策が必要となります。
交渉の時間についても,交渉がエンドレスになる恐れがあるので何時から何時までと適切な交渉時間を設定することが大切です。また,できる限り労働時間内は避けた方がよいでしょう。
(5) 議題について確定する
労働組合側からの団体交渉申入書に書かれている議題が,広範にわたっている場合には適宜修正を加えて議題を絞り,議論が波及・紛糾しないよう事前に調整する必要があります。
労働組合との団体交渉についても高木光春法理事務所が扱っております。
何度も遅刻や無断欠勤を繰り返したり,仕事上何度もミスを繰り返し会社の損害を与え,改善がまったく認められず,客観的に見ても職務遂行能力に欠ける場合には,勤怠不良や能力不足による解雇が認められる余地があります。
ただし,解雇が争われる場合には,会社の方でその合理性と社会的な相当性を証明していく必要があります。合理性と社会的相当性が認められるためには,
注意や指導や,処分(徐々に強いものに)にもかかわらず,改善がなされなかったことを会社の側で証明する必要があります。そこで,注意の原因となる事実,注意・指導・教育の内容,次回注意されたときには,今後改善されない場合には相応の処分を加えることを示唆する文言等を必ず書面で従業員に渡すことが重要です。
一度の問題行動を理由として解雇したのではなく,何度も注意を行うなどして解雇以外の解決方法を最大限模索したということが証明できれば,解雇が妥当なものであると判断される一材料となります。
また,注意の書面は,本人に渡すだけでなく,会社にも写しをとっておかなければ証拠としての意味がありませんので注意して下さい。
なお,注意を受けた者が自らの行動・自らの非を認めている場合に,その内容を記載した覚書を作成しておくことも,後日紛争に発展した場合に会社に有利に働きます。
まとめると,従業員の注意は必ず書面で行うことが重要です。
問題のある従業員がいてお困りの場合は一度高木光春法律事務所にご相談下さい。
解雇事由は,就業規則において定められているのが一般的です。もっとも,解雇事由を網羅的に就業規則に規定することは現実的ではありません。また,いかに労働者が信義を欠く行動をしたり,職務遂行能力がなかったり,会社に損害を与えた場合にも就業規則の解雇事由に当たらない限り解雇できないとすることは不当な結果になりかねません。
そこで一般的には,就業規則の解雇事由は解雇事由を限定した趣旨であることが明らかでない限り例示にすぎないとされ,就業規則に定めのない解雇も有効となる場合があります。この場合,無制限に解雇ができるということではなくて,解雇が客観的に合理的と認められ,社会通念上相当であると認められる場合でなければ解雇権を濫用したものとして無効とされます。
なお,就業規則に定めのない解雇事由の解雇は,無用の議論を生じるおそれがありますので,「前各号に準ずる重大な事由」等の包括条項を設けている会社がほとんどであると思われます。
従業員の解雇をお考えの場合は、一度高木光春法律事務所にご相談下さい。
使用者は,セクハラの申告に対しては,誠実に対応する義務があり,被害者が意に反して退職することのないように職場の環境を整える義務があります。
まずは,会社としては十分な調査が必要です。被害者の申告のみをうのみにして,加害者である社員に懲戒処分等をなした場合に,後にその事実を争われ,事実関係が覆った場合には会社は損害賠償責任を負う場合があります。一方で,被害者からのセクハラの申告に対して,会社が何の対応もとらず被害者が就業困難になり退職に追い込まれてしまった場合や,セクハラを原因とする単なる個人的な対立関係とみて被害者に退職を求めたり,解雇するようなことがあると会社は責任を問われるおそれがあります。
事実関係の詳細な調査は必要ですが,調査の仕方によっては被害者の苦痛を深めますので調査は慎重に行う必要があります。専門の相談窓口を設け,専門の委員会等が調査を行うことが求められます。
調査の結果,セクハラがあったことが明らかになった場合,職場環境を守るため,適切に処理することが必要です。加害者に対しては配転命令や,懲戒処分が考えられますが,慎重に行う必要があります。
なお,男女雇用機会均等法第11条では,職場においてセクハラ行為を防止するため,雇用管理上必要な配慮をすることが義務づけられています。会社において,上記のように相談窓口を設けるほか,どのような行為がセクハラになるのか社内での明確化と周知,セクハラ防止のための教育,就業規則等での定め,起きた場合の適正かつ迅速な処理,再発防止のための措置等が求められます。
社内でのセクハラが適正に処理できず,公になった場合には会社の社会的評価は低下します。
社内でセクハラの相談などがあった場合には,迅速に対応する必要があります。まずは高木光春法律事務所にご相談ください。
退職金制度を定めるかどうかは,会社が自由に定めることができます。
労働基準法は第89条において退職手当の定めをする場合には,適用される労働者の範囲,退職手当の決定,計算及び支払いの方法,支払いの時期に関する事項について就業規則に定めなければならないことになっています。
したがって,会社に退職金に関する就業規則や退職金規程がない場合には退職金という問題は原則として起きません。
もっとも,就業規則や退職金規程の定めがない場合において,一定の期間の勤続者に対して,ほぼ退職金が支給され,その額も一定の基準によって支給され,そのような取扱が少なくとも数年以上にわたって続いているような場合には,そのような内規がある場合,または内規のような文書がなくても,労使間には黙示に慣行に従った退職金の支払に関する合意があったと認められる場合には退職金の支払が裁判上認められる可能性があります。
このように,就業規則に定めがない場合にも,例外的に退職金を支払わなければならないことがあります。
会社としては,退職金制度を整備するか,制度化しないかを明確にし,従業員に周知する必要があるといえます。また,制度化しない場合には労使慣行が定着化しないよう,曖昧な取り扱いについて見直す必要があります。
高木光春法律事務所は退職金制度の整備の問題も扱っておりますので、是非高木光春法律事務所にご相談下さい。
過去の残業代の請求については在職中よりも,退職した従業員からの請求が多いと思います。
この場合,従業員は労働基準監督署などや弁護士に相談に行っていることが多いといえます。従業員の要求を無視すると,労働基準監督署からの出頭要求や立ち入り調査などで,全従業員について未払いの残業代の支払を命じられるおそれもあります。また労働審判の申し立てや訴訟を起こされ,会社が大きなダメージを受けることもあります。悪質と判断された場合には付加金を支払わなければならなくなるケースも生じます。
大切なことは,従業員の請求を無視しないということです。その上で,従業員の請求が妥当なものかどうかをきちんと判断する必要があります。従業員の請求には,不必要な時間外労働も多く,残業代の計算を正確に行っていない場合も多くあります。
会社としては,従業員の勤務実態を調査し,主張している労働時間に間違いがないか確認することが重要です。
早めに弁護士に相談に行き,適切かつ妥当な計算を行ってもらい,問題が大きくならないうちに問題を解決する必要があります。
高木光春法律事務所では残業代の問題も扱っておりますので、不安な場合は、是非高木光春法律事務所にご相談下さい。
まず,従業員が会社の業務中に会社の車で交通事故を起こした場合には,会社は使用者責任や運行供用者責任と言われる責任を負い,運転者とともに損害賠償責任を免れることはできないでしょう。会社は使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは責任を免れますが,きわめて限られた場面といえます。
また,たとえ会社の車でなくとも業務中にマイカーを使用して事故を起こした場合にも,会社は使用者責任及び運行供用者を負うことは免れないでしょう。マイカーを社用で使用していることを会社が認めていた場合は,その自動車を利用して会社の業務を行っていたといえ,会社の自動車を使用していたのと同じだからです。また,積極的に認めていた場合だけでなく,自家用車利用を知っていながら,注意することもなく放っておいたといった場合も含まれるでしょう。
では,従業員が通勤・退勤途中に事故を起こした場合はどうでしょうか。通勤は,会社が指揮関係を有し運行を支配しているわけではありませんので,マイカー通退勤中に事故が起きた場合でも,会社がマイカーを業務のために利用しているということにはならないため,原則としては会社に使用者責任や運行供用者責任は認められていないようです。もっとも労災保険では,通勤災害について,業務災害ではないものの,保険給付の対象としています。通退勤は労務の提供に必然的に伴うものですから,業務と密接な関連をもっているといえます。マイカーが日常的に会社の通退勤等に利用されていて,会社がマイカー通勤について通勤手当を支給したり,駐車場を提供したりするなど,会社がマイカー利用を積極的に認めているような場合に,会社がマイカーを業務のために利用していると評価して,使用者責任や運行供用者責任を認めた裁判例もあります。多くの会社では,マイカー規定を設け,マイカーの通勤を許可制にし,任意保険の加入をマイカー通勤の条件としています。規定には,事故が起きた場合,一切会社は責任を負わず事故で処理する旨の条項及びその旨の誓約書を出させることが一般的です。
上記のように,会社が責任を負うとする裁判例もありますが,従業員個人が任意保険に加入している場合には会社が実際に金銭を支払う事態はほぼ想定できません。重要なのは,会社のマイカー通勤に際し十分な額の任意保険の加入のチェックとその指導にあるといえます。
不安のある場合には、一度高木光春法律事務所にご相談下さい。
配転,出向は,従業員やその家族に大きな影響を与えます。高齢化社会での親の介護,子の学校の問題などを理由として,従業員が配転や出向を拒否するという事例もふえてきています。配転や出向等を従業員に命じる際には,どのような条件が必要でしょうか。
(1)配転命令
配転とは,従業員の同一企業内での異動のことで,職務内容または勤務地が相当期間変わるものをいいます。このうち,同一の勤務地(事業所内)での職種内容が変わるものを「配置転換」,勤務地が変わるものを「転勤」と呼んでいます。かつては,使用者に人事権があるので自由に配転命令をなし得るとの考えがありましたが,現在では人事権も無制約でなく,使用者と労働者との合意によって決まるものと考えられています。配転が認められる条件は以下のとおりです。
①個々の労働契約・就業規則等に配転命令の根拠があること
勤務地が限定される労働契約が結ばれている場合は,その限定された勤務地内での配転命令しかできません。限定された場所以外に配転するには労働者の同意が必要です。また,採用時に労働者が行う業務が限定されているとみるべき場合にも,一方的な配転命令はできず,労働者の同意が必要となります。
②当該配転命令が法令等に反しないこと
配転命令が実質的に組合活動を妨害する目的でなされる場合や,当該従業員の思想や政治的な考え方を理由とするものは,法令違反となり,配転命令は無効となります。
③配転命令が権利濫用にあたらないこと
配転命令が配転命令権と一見みえるものであっても,権利濫用にあたる場合は,無効になります。判例(東亜ペイント事件・最判昭61.7.14労判477-6)によれば,権利濫用か否かについては,次のⅰ~ⅴまでの要素を総合的に勘案して判断すべきこととされています。
ⅰ 当該人員配置の変更を行う業務上の必要性の有無
ⅱ 人員選択の合理性
ⅲ 配転命令が不当な動機・目的(嫌がらせによる退職強要など)でなされているか否か
ⅳ 当該配転が労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか否か
ⅴ その他上記に準じる特段の事情の有無(配転をめぐる経緯,配転の手続など)
(2)出向(在籍出向)
出向には,労働者の雇用先の企業(出向元)に在籍のまま,他の企業の事業所(出向先)で働く「在籍出向」と雇用先の企業から他の企業へ籍を移して働く「転籍」があります。ここでは,まず,在籍出向の認められる条件を述べます。
出向も,上の配転命令で述べた①~③と基本的には同様の規制を受けます。ただし,出向に特有の事情に注意する必要があります。出向は配転と違って,就労先が出向元から出向先に変わります。これは,法的には,出向元企業が,出向先企業に対し,労働者に対する「労務給付請求権」(働くことを求める権利)」を譲ることを意味します。労働者への影響が大きいこともあって,労務給付請求権など使用者の権利を第三者に譲る場合は,労働者の承諾(同意)が必要であるとされています。この同意は,個別的な同意だけでなく,包括的な同意でもよいとする裁判例も多くなってきています。ただし,包括的同意については,最高裁判所は,就業規則と労働協約に出向命令権を根拠づける規定があり,出向労働者の利益に配慮した出向規程(出向期間や出向中の地位,出向先での労働条件に関し,出向者の利益に配慮したルール)が設けられている事案で,企業は従業員の個別的同意なしに出向を命じることができると判断しています(最二小判平成15.4.18 新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件 労判847号14頁)。包括的同意といっても,出向者の利益に配慮したルールも定められている場合であるということに注意が必要です。
次に,出向命令権の行使が権利濫用で無効になるのはどういう場合かについては,労働契約法に規定があります。同法14条は,「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において,当該出向の命令が,その必要性,対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして,その権利を濫用したものと認められる場合には,当該命令は,無効とする」と定めています。権利濫用か否かを判断する要素としては,配転の場合と類似性があります。
なお,出向期間中の労働関係については,基本的な労働契約関係は出向元にあると解されます。法的には,出向に伴い,出向元と出向する従業員の労働契約上の権利義務の一部が,出向先企業に移ることになります。労働契約上の権利義務のどの部分が移るのかは,出向元と出向先の合意で決められることになります。一般に,労働時間に関する諸規定は,就労を命じる権限を持つ出向先に適用されると思われます,これに対して賃金に関する諸規定は,出向者への賃金の支払いに責任を持っている企業が出向元・出向先のいずれであるかを出向協定等に基づき判断したうえで,支払義務がある側に適用されることになるでしょう。
(3)転籍命令
転籍とは,従来の雇用先との労働契約を終了させ,新たに他企業との間に労働契約を締結して,他企業の業務に従事することになります。
よって,転籍は出向と異なって,労働者の個別的・具体的な同意が必要であることにほぼ争いはありません。
配転,出向について不安のある場合には,高木光春法律事務所に一度ご相談下さい。
従業員をやめさせる、つまり解雇は,たとえ会社の側に正当な解雇の理由があったとしても,従業員がその解雇事由の事実がないといって争ったり,事実自体は認めても解雇の不当性を主張して紛争に発展した場合,会社は紛争に巻き込まれて解決に時間と多大な労力を費やさなければならないことになることもあります。
そこで,まずは会社としては話合いにより,従業員に自主的に退職させることが重要となります。従業員が納得して退職する場合には必ず,退職届けを提出してもらうようにして下さい。もっとも,従業員がまったく納得していないのに執拗に退職を促した場合には,後に争われ違法と評価される場合もありますので慎重におこなう必要があります。
解雇事由が認められるにもかかわらず任意退職しようとしない場合は,解雇することもやむをえないといえます。しかし,解雇は客観的に合理的理由があり,社会的に相当と認められる場合でなければ,解雇権の濫用として無効になるおそれがあります。そこで,解雇をしようとする場合にはまず,その社員が解雇が不当だと争ってきた場合に解雇事由の客観性・合理性を主張できるように,十分な証拠を残しておく必要があります(「問題のある従業員に注意をする場合の留意点は?」参照)。
解雇には大きく,普通解雇,懲戒解雇,整理解雇があります。それぞれに要件が異なりますので,会社が考えている解雇がどれに当たるのかを判断する必要があります(「普通解雇と懲戒解雇はどう違うのですか?」及び「整理解雇をするときの注意点は?」の項を参照)。
なお,解雇が法律上禁止されている場合も多くあります(たとえば,産前産後の休業期間中及びその後30日間(労基法第19条),公益通報を理由とすること(公益通報者保護法第3条)等)。解雇が法律上禁止されていないことは解雇を検討する上での大前提となりますので注意して下さい。
不安がある場合には一度高木光春法律事務所にご相談下さい。
整理解雇とは,会社の経営上の理由(企業経営の合理化,整備等)により人員削減が必要な場合に行われる解雇のことです。
この解雇では,裁判法理上一般に次の4要件を満たすことが必要と考えられています。
①人員整理を行う業務上の必要性があるか(人員削減の必要性)
②解雇を回避するために具体的な措置を講ずる努力が十分になされたか
(解雇回避努力義務)
③解雇の基準及びその適用(被解雇者の選定)に合理性があるか(被解雇者選定の合理性)
④人員整理の必要性と内容について労働者に対し誠実に説明を行い,かつ十分に協議して納得を得るよう努力を尽くしたか(解雇手続の妥当性)
ただし最近の判例では,整理解雇をする場合,必ずしも整理解雇の4要件全てを満たさなくとも整理解雇が有効と判断するものもあります。つまり,解雇権が濫用的に行使されたかどうかの判断に際しての考慮要素の例示にすぎないとし,4要件を考慮要素として,個別具体的な事情を総合考慮して判断する裁判例が登場しています。
とはいえ,上記の4類型は考慮要素として重要なことには変わりはないと考えられますので,整理解雇を考える場合には,それが後に解雇権の濫用として無効とならないために,弁護士に相談の上,整理解雇を進めてゆくことが重要です。
整理解雇をお考えの経営者の方は一度高木光春法律事務所にご相談下さい。
・従業員の求人募集をするには,原則として年齢制限はできません。
ただし,これは企業の努力義務を定めたものですので,例外的に相当な理由があれば,特定の年齢層の者だけを求人募集をすることができます(雇用対策法)。
・募集・採用については,「事業主は,労働者の募集及び採用について,女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない」としています。指針で,①対象から男女のいずれかを除いたり,②条件を男女で異なるものとすること,③能力や適正を判断するための試験のやり方を男女で変えたり,④男女のいずれかを優先的に採用したり,⑤求人説明等について対象を男女どちらかに限ったり,時期を男女で変えたりすることが禁止されています(男女雇用機会均等法)。
・求職者に誤解を与えるような虚偽の求人広告を出すと処罰されます(6ヶ月以下の懲役刑又は30万円以下の罰金刑,職業安定法)。
たとえば,営業職募集にあたり高額な歩合給を提示したり,親会社の名前や信用を使った求人募集などはひかえましょう。
・面接を行なったり,履歴書などを出させる場合は,必要な範囲で求職者の個人情報を収集・保管・使用しなければなりません。
・労働条件は労働契約の内容になるものですので,労働基準法では次に挙げる労働条件の明示が義務づけられています。
(絶対的に明示しなければならない事項)
① 労働契約の期間
② 就業の場所,従事すべき業務
③ 始業及び終業の時刻,所定労働時間を超える労働の有無,休憩時間・休日・休暇,労働者を2組以上にわけて交替に就業させる場合における就業時転換に関する事項
④賃金(退職金,賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法,賃金の締切・支払の時期,昇給に関する事項
⑤退職に関する事項
(その事項に関する事項を定めた場合には明示しなければならない事項)
① 退職手当の定めをする場合は,労働者の範囲,退職手当の決定・計算・支払いの方法及び支払の時期に関する事項
② 臨時の賃金等及び最低賃金額の定めをする場合は,これらに関する事項
③ 労働者に食事,作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は,これに関する事項
④ 安全及び衛生に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑤ 職業訓練に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合は,これに関する事項
⑦ 表彰及び制裁の定めをする場合は,種類及び程度に関する事項
⑧ 休職に関する事項
(書面の交付により明示しなければならない事項)
① 労働契約の期間
② 就業の場所,従事すべき業務
③ 始業及び終業の時刻,所定労働時間を超える労働の有無,休憩時間・休日・休暇,労働者を2組以上の分けて交替に就業させる場合における就業時転換に関する事項
④ 賃金(退職金,賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法,賃金の締切・支払の時期に関する事項
⑤ 退職に関する事項
上記規定によって明示された労働条件が事実と違う場合には,労働者は,労働契約を解除することができます。この場合,就業のために住居を変更した労働者が,契約解除の日から14日以内に帰郷する場合には,使用者は,必要な旅費を負担しなければなりません。
普通解雇と懲戒解雇は,使用者が一方的に雇用契約を打ち切る意思表示である点では同じです。しかし,懲戒解雇は会社の秩序を乱したことを理由に行う解雇である点で,会社から命じられた仕事をしないことを理由として行う普通解雇とは異なります。懲戒解雇には,懲戒という側面と解雇という側面があります。
普通解雇,懲戒解雇ともいずれも,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められる場合でなければ,解雇権の濫用として無効となることは同じです。
しかし,懲戒解雇は,普通解雇と違って,就業規則や退職金規程等において退職金や解雇予告手当を支払わない旨規定していたり,再就職等に際し大きな不利益を与えることになるため,下記のようにより厳しい条件をクリアしなければなりません。
1 就業規則上の懲戒解雇事由に該当すること
普通解雇の場合には,就業規則の事由に当たらない解雇も一定の要件があればなしうると考えられています(「就業規則に記載されていない理由で従業員を解雇できますか?」の項を参照)。これに対して,懲戒解雇の場合は,就業規則の懲戒解雇事由に当たらないと懲戒解雇することはできない(限定列挙)とされています。それは,懲戒解雇が,懲戒処分のうち,企業から放り出すという重い処分として行われるものであるため,解雇事由はあらかじめ就業規則に明らかにしておく必要があるためです。
2 従業員の行為と懲戒解雇することとのバランスがとれていること(相当性)
従業員の非違行為の程度やその他の事情に照らして,懲戒解雇という重い処分を行うことが本当に必要なのか,妥当な処分なのかが判断のポイントとなります。
3 適正手続の保障が要求されること
使用者が従業員を懲戒処分するにあたり,罪刑法定主義という刑事法の刑罰を科す場合に準じた手続きが必要となります。
罪刑法定主義(就業規則上懲戒解雇事由が定められ,これに該当する具体的な事実が必要であること)
不遡及の原則(後から定めた就業規則の懲戒事由によって処分できないこと)
一事不再理の原則(過去にすでに処分を受けている行為について重ねて処分できないこと)
適正手続の原則(本人に弁明の機会を与えること)
会社としては,以上をふまえて,懲戒解雇あるいは普通解雇が妥当かどうか検討する必要があります。
では,懲戒解雇,普通解雇のいずれにも当たると考えられる場合,懲戒解雇を行うのと普通解雇を行うのとでは,どういった違いがあるのでしょうか。
①解雇予告手当の支払の有無
労働基準法では,解雇する場合の手続として,30日前の予告または平均賃金30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要とされています。普通解雇の場合には,解雇予告手当の支払が必要となります。
これに対して,従業員に即時解雇されても仕方がない著しい非違行為があれば,所轄労働基準監督署であらかじめ「解雇予告除外認定」を受けて解雇予告や解雇予告手当を支払うことなしに即時解雇することができます。懲戒解雇の事由にあたる場合には,解雇予告除外認定を受けられる場合が多いといえますが,注意しなければならないのは,懲戒解雇=解雇予告手当を支払わないでよいということではないということです。
②雇用保険の給付制限の有無
雇用保険の失業等給付のうち基本手当(いわゆる失業保険)を受けようとすると,普通解雇の場合には,一般に給付制限を受けることはありません。しかし,当該社員の責に帰すべき重大な理由があって解雇または懲戒解雇された場合(重責解雇の場合)には,自己都合退職した場合と同様に給付制限を受けることとなります。つまり,待期期間経過後最長3ヶ月経過しないと失業等給付は支給されないことになります。
このように,普通解雇と懲戒解雇では,要件,効果に大きな違いがあります。
解雇をお考えの経営者の方は,是非高木光春法律事務所にご相談下さい。
最近,職場内でいじめやパワハラを受けて退職した従業員から,会社が訴えられるというケースも増えてきています。
従前は個人間の問題として取り扱われてきましたが,現在では以下に述べるように労務管理としての問題としてとらえていく必要があります。
厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が,平成24年3月に発表した提言では「職場のパワーハラスメント」は,「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」となっています。ポイントは次の点にあります。
1 .職場内の優位性
上司から部下に対しての行為だけでなく,先輩・後輩間や同僚間,さらには部下から上司に対して行われるなどの様々な職務上の地位や人間関係の優位性を背景に行われるケースが含まれます。
2 業務の適正な範囲
個人の受け止め方によって不満に感じる指示や注意・指導があっても「業務の適正な範囲」内であればパワーハラスメントに該当はしません。
典型的な,パワーハラスメントとしては,次の6つが挙げられます。
(1)暴行・傷害
(2)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
(3)隔離・仲間外し・無視
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害
(5)業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
(6)私的なことに過度に立ち入ること
職場のパワーハラスメントを放置すれば,被害従業員の心の健康を害するだけでなく,職場の雰囲気・生産性が悪化し,退職等によって人材が流出してしまうといった問題が生じます。
さらに加害従業員のみならず,会社も使用者として「不法行為責任(使用者責任)」や「職場環境配慮義務違反」などの法的責任を問われ金銭的負担が発生したり,会社のイメージが低下したりと,会社へも大きな悪影響を及ぼすことも考えられます
まずは,パワーハラスメントの問題は,労務管理の問題であるという会社内での認識が必要です。そして,セクハラの問題と同じように,慎重かつ適切な処理が要求されます。対応を誤ると,問題が大きくなり会社のイメージの低下に結びついてしまいます。
ではパワーハラスメントの問題について,会社はどのように対応すべきでしょうか。
予防としては,経営者が,パワーハラスメントは職場からなくすべきであることを明確に示すとともに,就業規則に関係規定を設ける,労使協定を締結するなど一定のルールを設けることが必要です。また,予防・解決についての方針やガイドラインを作成するとともに,従業員アンケートを実施するなどしてパワハラやいじめの実態を把握することも有効です。また,どのような行為がパワハラになるのかを従業員に教育し,研修等を実施して周知する必要もあります。
起きてしまったパワハラやいじめの問題については,解決のための相談窓口をあらかじめ設けるとともに,職場の対応責任者をきめ,早期に事実の確認・調査を行う。場合によっては,弁護士等の外部専門家と連携し適切な対処法を検討する,
加害者の適切な配置転換や処分を行う,行為者に対し再発防止のための研修を行うなどの対応が必要です。
上で述べたように,対応を誤りますと,訴訟になり会社のイメージが低下しますので,パワハラの問題が生じたときは早期に弁護士に相談することが肝心です。
高木光春法律事務所はパワハラの問題も扱っておりますので、不安な場合は是非高木光春法律事務所にご相談下さい。
被解雇者が解雇無効を主張してきた場合,まずはどのような理由で解雇無効を主張しているのか確かめることが重要です。
解雇理由に争いがあるのか,解雇の手続を問題としているのか,また,従業員がどのようなことを主張しているのかによって,会社側がとるべき方法も変わってくるものです。
そこでまずは,どのような理由で解雇無効を主張しているのか明らかにすることを求める書面を従業員、つまり被解雇者に送るとよいでしょう。これに対する被解雇者の反応によって,解雇無効の主張が単なる言いがかり的なものなのかを判断することもできます。
被解雇者の主張がはっきりしたら,弁護士に事情を説明しその後の対応を相談しましょう。
そのまま放置してしまうと,解雇無効の訴えを起こされるおそれもあります。また,不誠実な対応をした場合,そのような対応にもとづく慰謝料まで請求されるおそれもあります。
迅速かつ適切に行動することが何より重要です。
高木光春法律事務所では,解雇無効の問題も得意分野としておりますので安心してご相談下さい。