法律コラム/日本社会と加害者家族

あっては困ることだが、不幸にして、殺人事件が起き、被害者が亡くなったとしよう。ケースバイケースではあるが、被害者の遺族は、加害者だけでなく、加害者の父母や家族を恨む、憎しみを抱くということはしばしば見受ける。

日本人は、「世間」とか「世間体」ということを大切にする。「世間」には、人権とか権利はない。譲り合いの精神が大事、恩を受けたら恩で返す、やられたらやり返すということだ。犯罪が発生すると、加害者家族は、「世間」から嫌がらせの手紙や電話、落書きなどの攻撃を匿名でやられる。これに、インターネットによる攻撃が拍車をかける。「和」を重視するこの考え方は、被害者家族にも向けられる。「被害者になったのにはそれなりの理由があったのではないか」と好奇の目で見られることもある。報道機関が被害者のプライバシーを書きたてこれを助長することもある。

では、我々は、加害者家族とどう向き合っていけばよいのか。大きく3つの考え方があるようである。第1は、家族にも加害者に準じた責任がある。社会的制裁は甘受すべきという考え方、第2は、加害者家族を支えることは、加害者が出所した際の受け皿を作ることにつながる、再犯防止につながるという考え方、第3は、目の前に困っている人がいれば手を差し伸べるという福祉論の立場だ。

加害者家族とどう向き合うかは、非常に難しい問題だ。自分がいつ加害者の家族になるかもわからない。ただ、第1の立場よりも第2、第3の考え方が健全だということは言えるように思う。

被害者家族については、犯罪被害者等基本法が制定され、一歩その保護が前進したように思われる。

他方、加害者家族の支援はまだ緒に着いたばかりである。加害者家族を支援することによって、犯罪のない、成熟した健全な社会に近づくことを期待したい。

本年9月29日にさいたま市で開かれる、関東弁護士会連合会定期大会では「刑事加害者家族の支援について考える」というテーマでシンポジウムが開かれる。興味のある方はご参加いただきたい。

(弁護士 高木光春)

 


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