居住用マンションの一室を借りている借家人が、旅行会社の事務所として部屋を使用していることが分かりました。建物賃貸借契約を解除することはできますか。
賃借人に用法違反があった場合で、それによって賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されていると認められる場合は、契約を解除できます。信頼関係が破壊されているか否かは、事務所としての使用形態、来訪者の有無・程度等の具体的な事情も考慮して決せられます。
契約解除は簡単にはできない。
一般的な契約の場合、契約違反があれば契約不履行として、契約を解除することができますが、賃貸借契約の場合、それに加えて、契約不履行により賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊された場合でなければ、解除することができません。これは、賃貸借契約が信頼関係を基礎とする契約であることに加え、解除された際の賃借人側の不利益が非常に大きいことから、解除権に一定の制限がかけられているためです。
用法違反をしている賃借人はどのような場合に追い出せるか?
例えばアパートの居室内での楽器の使用を禁止していた場合でも、1度や2度、演奏したというだけでは通常、有効に契約を解除することはできません。
他方で、再三注意をしたにも拘わらず賃借人が従わず、しかも隣近所に多大な迷惑が掛かっているというケースであれば、解除も認められうるでしょう。
契約段階で認めていなかった営業(風俗営業等)を行った場合や、住宅用に賃借した場合に店舗や事務所として使用した場合にも用法違反になり、契約を解除することができます。ただし、使用形態、来訪者の有無・程度等の具体的な事情を考慮して、実質的に賃貸人に悪影響を及ぼさない場合には、信頼関係破壊が認められないとして、解除が認められない場合もあります。
信頼関係破壊が認められるか否かはケースバイケースですが、判例上、解除が認められたものとしては、次のようなものがあります。
・アパートにおいて徹夜麻雀をしばしば行い、騒音のために他の居住者の睡眠を妨げた事例(東京北簡判昭43.8.26判時538号72頁)
・使用目的を飲食店として賃貸した店舗において、賃借人が金融業を営んだ事例(名古屋地判昭59.9.26判タ540号234頁)
・賃貸家屋が暴力団事務所として使用された事例(宇都宮地判昭62.11.27判時1272号116頁)
・賃貸店舗の営業態様を純喫茶から風俗喫茶に変更した事例(東京高判昭59.3.7判時1115号97頁)
・2階建て住宅の一部分を賃借した賃借人が8匹ないし10匹の猫を飼育した事例(東京地判昭62.3.2判時1262号117頁)