先日、父が亡くなり、遺品を整理するとともに、遺産分割協議に向けて父の財産の洗い出しをしているところです。遺産分割の対象となるのは、どのようなものでしょうか。
法律上、相続人は、被相続人の一身に専属する権利を除き、相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するとされています。
遺産分割としてよく問題となるのは、不動産(土地、建物)や預貯金です。
しかし、実は、預貯金(金銭債権)は、相続開始と同時に当然分割により分割は終了していると考えられており、相続人全員の合意がないと遺産分割の対象とはなりません。そのため、遺産分割調停で合意ができず、審判に委ねることとなった場合に、相続人の一部が預貯金の遺産性に異議を唱えると、預貯金は審判の対象とされないこととなります。
このように、遺産分割の対象となるか否か問題となる財産や、あるいは、対象とはならないが、遺産分割の対象に含めてよいか問題となる財産のほか、そもそも遺産であるかどうかが問題となる財産など、細かく見ていくと、どの財産が遺産分割の対象となるかの判断は、一筋縄ではいかないことが分かります。
具体的にみていくと、次のようなものがあります。
生命保険金
生命保険金は、被保険者の死亡後に、受取人が固有の権利として保険金請求権を取得するものであり、被保険者以外を受取人に指定した場合,遺産ではありません。したがって、原則として遺産分割の対象とはなりません。
ただし、保険金額が著しく多い場合、例外的に遺産として扱われる場合があります。
死亡退職金
死亡退職金は、賃金の後払いとしての性格と、遺族の生活保障としての性格があり、前者に着目すると遺産性を認める方向に、後者に着目すると遺産性を認めない方向に傾くことになります。
遺産性の有無は一律に決せられるものではなく、支給基準、受給権者の範囲・順位などの規定内容により遺産性を検討するものとされています。
代償財産
① 代償財産
代償財産とは、遺産の処分によって得られた別の財産のことをいいます。遺産である不動産を売却した場合の売却金が代償財産にあたります。
遺産分割前でも、相続人全員の同意がある場合には、共有状態の遺産に含まれる個々の物や権利を処分することができます。
その場合に、代償財産が相続の対象になるかという問題が生じます。すなわち、代償財産が相続財産に含まれるとすれば、遺産分割を経るまでは相続人が代償財産を取得できないことになるからです。
② 最高裁昭和54年2月22日判決
相続人全員の同意によって売却された土地代金について、
売却した土地は、遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含めると合意するなどの特別な事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである、 と判示しています。
すなわち、代償財産は、特別に遺産分割の対象とする合意がある場合を除いて相続財産に含まれないこととなります。
各相続人は、遺産分割前であっても、自己の相続分に応じた代償財産の取得や引渡しを請求できることとなります。
弁護士に委任すると……
遺産分割にあたっては、相続財産の範囲を確定する必要がありますが、遺産性の判断に困ることは少なくありません。
後日、トラブルが生じないよう円満且つ迅速に遺産分割をまとめるには、法律専門家のアドバイスが有効です。お困りの際は、高木光春法律事務所にご相談ください。