先週、オリンピックメダリストが賭博罪で罰金の命令を受けたというニュースがありました。
インターネットの普及で海外の人々と容易に交流できるようになった一方、法律は国ごとにさまざまですので、同じwebサイトで一緒に賭け事をしていても、ある国の人にとっては犯罪となり、ある国の人にとっては犯罪でないということが起こりえます。
インターネットで海外のwebサイトにアクセスする場合、賭け事に限らず、運営する側にとっては合法的なサイトであっても、利用者にとっては犯罪になってしまうかもしれない、ということは気を付ける必要があります。
ところで、例えばラスベガスやマカオのカジノに実際に行って賭博をしても、処罰されるこという例は聞きません。これはなぜでしょうか。
法律的には、①国内犯に当たるかと、②国外犯処罰規定の二つの観点から見ていく必要があります。
刑法の第1条には、「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。」と書かれていますので、まずは「日本国内において」というのがどういうことかが問題となります。
裁判所は、刑法などに書かれた犯罪の要件の一部でも日本で発生すれば「日本国内において罪を犯した」と言えると考えています。
例えばこんな事件があります。
Aが友人のB、妹のC、その愛人Dなどと共に台湾の台北に滞在していたところ、ある時DがBに対して覚醒剤が欲しいと頼んだ。Bは高雄から台北まで覚醒剤を買いにいくことにし、Aはこれに同行し、同中で覚醒剤を手にしたこともあった。
Bは台北でDに覚醒剤を手渡し、Dは覚醒剤を日本に輸入した。 |
この事例では、Aは台湾でしか覚醒剤に関わっておらず、一見すると「日本国内において罪を犯した」場合に当たらないように見えます。しかし、実際にこの覚醒剤が日本に輸入された以上、それを助けたAも「日本国内において罪を犯した」ものとして、国内犯として扱うことにしました。
また、こんな事件もあります。
貿易会社に勤めていたEは、ドイツ籍の船「ゴーベン号」に発火しやすい油紙を積み込んだが、積み荷の種類を運航業者に伝えなかった。船が香港沖に差し掛かったところ、油紙は発火し、火事が起きた |
こちらは逆に、火事が起きたのはドイツ扱いの船内でした。この場合も、Eがミスをしたのが日本国内である以上、「日本国内において罪を犯した」ものとして、国内犯として扱われます。
このように、「日本国内において罪を犯した」とは、犯罪に当たる行為か結果の一部でも日本国内で発生していればよいので、かなり幅広く認められます。
このためもちろん、海外のwebサイトにアクセスして賭博をする行為も国内犯になりますが、一方で外国に行って賭博をする分には、「国内犯」とは認められることは考えにくいと言えます。
次に、刑法の2条から4条にかけて、外国で犯罪を行った場合でも処罰されるものが指定されています。例えば、日本人が放火や誘拐などの犯罪を外国で行った場合、日本でも処罰されることがありますし(3条)、日本人が外国で強盗や殺人などの被害に遭った場合、日本で処罰されることもあります(3条の2)。
しかしながら、賭博罪についてはこれらの条文に含まれていないので、国内犯でない限り、賭博罪として処罰されることはありません。
このようなルールによって、オンラインカジノは処罰され、実際に海外のカジノで賭博することは処罰されないということになります。
賭博したことに変わりはないじゃないかとも思われますが、最高裁判所としては賭博は
単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風を害する |
らしいので、要するに日本国内で賭博が流行らなければいいという立場なのかもしれません。